卯月の過去(学生時代)
卯月:(私が医師免許を失い、病院を辞めたのは数年前のこと。司の方針に真っ向から異議を唱えた結果……
私は…あらぬ疑惑を掛けられてしまった。"精神障害"…医師免許の剥奪には十分すぎる内容で……
ほどなくして私は、病院を退職することになりましたね。あのまま病院に居れば……必要のない治療を強いられる事が分かっていましたから。
この診療所は、副院長のキモナシさんから借り受けた場所。もちろん設備も十分とは言えないので正規の診療はできませんが……
いつか、司の不正を暴くための手掛かりを掴むための居城にしていました。しかしまさかこんな形で、再び司と縁をもつ事になろうとは……)
限前:………そういえば、父さんのこと呼び捨てにしてますけど……お知り合い、なんですか?
卯月:昔の同僚、ですよ。同じ病院に勤務していた…ね。その時色々ありまして、私は現役の医師を退きました。
限前:………父さんが院長になってから、たくさんの人が辞めていったと聞きましたけど……
卯月:私が退職したのは、それよりも少し前の話です。ですが何となく、そうなるとは思っていましたよ。
司は、自分に逆らう者には容赦しませんでしたし。
限前:………………じゃあ、おじさんが病院を辞めたのも…父さんのせいなんですか?
卯月:もし良ければ、私の事は卯月と呼んでくださいな。
良いですか、零君。相手の事情を知らずに、何でもかんでも原因を外部に求めてはなりませんよ。私が退職したのも…自分の意思でそう決めたこと。
司の方針と相容れなかったのは事実ですが、それだけです。(徒に明かす必要はないでしょう…これ以上司の事で思い詰めさせてはいけない…)
しかし、ずいぶん病院の事情に詳しいんですね。司の影響ですか?
限前:一応、医者になるために受験勉強中なんです。だから病院に居ることも多いので……あ。
す、すみません!塾の時間なので俺…帰らないと。
卯月:そう、ですか。くれぐれも無茶はしないでくださいね?
限前:………ありがとうございます。
卯月:そして、具合が良くないならまた私の所においでなさい。私はいつでもこの診療所に居ますから…ね?
限前:………はい、卯月さん。失礼します。
(限前が立ち去ったあと、奥からこの話を聞いていた"もう一人"が姿を現した)
?:……へぇ。誰を連れてきたのかと思えば…零だったのね。
卯月:本当に想定外、でした。誰かの空似と思ったら…まさかの息子だったとは。
キモナシさん、もう少し普段の零君について聞かせてはくれませんか?
キモナシ:あら、気になるんだ…零のこと。教えるのは良いけど……でも、どうするつもり?
卯月:彼を助けることが、司への対抗の一助になれば……そう思ってましたが。
キモナシ:……ました、か。理由はそれだけじゃないのね。いや…もはやそんな事はどうでも良いのかな?
卯月:………………息子である彼には、おそらく私以上に酷な運命が待っているでしょう。どうか、どうか彼に……
私のような想いはさせたくないんです。権力に屈し、自らの信念を曲げざるを得ない悲しみや葛藤を……!
キモナシ:卯月君……。
卯月:今になって後悔しているんですよ、私。司の不正を暴くには内部で手掛かりを探らねばならない…
隠蔽と欺瞞にまみれた内情を、外部から窺い知る事は不可能に近いと、思い知ったのです。
キモナシ:遅かれ早かれ、辞職という結末は変わらなかっただろう。仮に卯月君がそう決断しなくても、僕が止めたと思うし。
自分を犠牲にしてでも事を進めようとするのは、ある意味零と遜色ない考えだねぇ……奇遇なことに。
卯月:………………どういう、意味ですか?
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