限前と卯月の出会い(学生時代)

限前:(うっ……頭がガンガンする。具合が良くないのは分かってるけど……父さんには知られたくない…)


(ふらつきながら歩く青年を見つけた卯月は、様子を窺いながら尾行することにした)


卯月:(………ふむ……?彼、ちょっと危なっかしいですね…。それに昔会った"誰か"に似ているような気が…)


(どうやら彼は目の前の信号が赤である事に気がついていないようだ。そのまま車道を横断しようとしている)


卯月:…………!?待ちなさい、君!車に轢かれますよ!


(何とか追いついた卯月は、彼の襟を掴んで歩道へと連れ戻す)


限前:(………誰、だ………?知らないひとだよな…)


卯月:どうして車道に出ていったんですか!?信号、まだ赤でしたよ!


限前:………え……?俺、そんなつもりは……(ヤバい、全然前見てなかったのか…)


すみません、ありがとうございました……


(そのまま立ち去ろうとする彼の腕を掴んだ卯月。驚いた表情になった彼は首をかしげた)


………なっ…まだ、何か?


卯月:話があります。私と来なさい、拒否権はありませんよ。


限前:………えっ…?ま、待って!


(卯月は彼の返事も待たず、根城にしている古びた診療所へと連れ込んだ)


卯月:…………貴方、名前は?年齢とともに正直に答えなさい。嘘はつかないでくださいね?


限前:き……限前零、です。17歳ですけど……(名乗りたく、なかったのに…!)


卯月:("限前"、ですって?まさかあの、限前司の息子が…この子だったとは思いもよらなかった…ですね)


限前:あの……お願いです。誰にも…知られたくないんです、だから俺の事は放っておいてくれませんか…!


卯月:…………さすがは司の息子さんですね。私が何の目的で貴方を此処へ連れてきたのかを早くも察しましたか。(聡いのは父親譲り、ですか…)


先ほど申し上げた通り、今の貴方には拒否権などありません。今から示す二択から好きな方を選びなさいな。


一つ、このまま司にご自分の状況を打ち明け正規の診療を受けること。


二つ、医師免許を持っていない私の診療を受けること。


無論、決めあぐねるのであれば強制で司に連絡しますが。


限前:………嫌です!あの人にだけは、絶対に知られたくない……。だから、調子が悪くてもずっと病院に行けなくて…


限前の名字だけで、息子だと知られてしまうのが恐ろしくて……!


卯月:そう、ですか。…………できれば私ではない、誰でもいいので正規の医師の診療を受けて欲しかったです。


ですが、患者の希望を可能な限り聞き入れるのも医師の務めというもの。このまま無理強いして状況を悪化させるつもりはありません。


希望通り、司には今回の話を伏せましょう。私が診ますよ、零君。


限前:え。でも、それって…?(悪いこと、だったような……)


卯月:ふふ…今回の話が明るみに出れば、お互いに都合が悪いようですね?利害関係は一致している以上、最適解だと思いますがね。


限前:………ごめんなさい。俺のせいで、こんな面倒な話になって…


卯月:気にしないでください。これ以上、貴方に一人で抱え込ませるつもりはありませんので。


(この私が、司の息子を秘密裏に助ける事になろうとは。憎んでいた相手だけに複雑ですが……"彼"もまた、形は違えど被害者の一人。


悪いのは司本人であって、息子は無関係。ならば見捨てる訳にはいきませんし)

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