見慣れない顔(青年)

日向:………あの方は?白衣を羽織っているようですが、この病院では見慣れない顔ですね。


キモナシ:あ……そうか。紹介しとくよ。彼は霊安室の主こと神是樹君。一応医師免許は持ってるんだけどね、診療には従事してないからさ。


日向:れ、霊安室の………?そういえば、この病院では霊安室に一回も寄ったことが無いような…


キモナシ:んー…無闇に行っちゃダメだよ。関係者以外立ち入り禁止だからね、あそこ。メスが飛んでくるかも。


日向:どんな危険地帯なのですか!?一応私、この病院に従事してますけどダメですか……?


キモナシ:関係ないよ。この場合の関係者ってのは…刑事・遺族・担当医かなぁ。僕でも滅多に行かないし。


日向:………その、気難しい方なのですか?神是さんは…


キモナシ:生きてる人間に全く興味がないんだって。だからあの子、この病院で亡くなった患者さんの担当を一括で引き受けてるんだよ。


時々警察からの要請で司法解剖もしてるんだよねぇ。死因を探るのが楽しいって言ってたっけ。


日向:………そうなんですか。私は、どうしても死者と向き合うと…その、気が重くなると言いますか…


事件や事故に巻き込まれた方なら、尚更辛くなりますね。


キモナシ:昔さ、この病院で飛び降りがあったんだ。薬の副作用で錯乱状態に陥ってね……


日向:………え?


キモナシ:その患者さんの遺体を拾い集めたのも、樹だったっけ。


日向:………!?そ、それって………まさかお一人で?


キモナシ:そ。むしろ僕らは人払いに徹してさ、樹はその間にまだ息があったその人を看取って……


あっという間、だったなぁ。ホント、迷いも躊躇いもなかった。


日向:………凄い方なんですね。(どうしても狼狽えてしまいます、ましてや即死でないなら救命の余地がないかと考えてしまうのですが…)


キモナシ:凄いと言えばもう一つ。これは時々換えなさいって注意してるんだけど……あの時拾い集めた遺体をくるんでたのって、あの今着てる白衣なのよね。


べったり血がついてて……その様子を見た患者さんから鮮血の死神なんて渾名がついたりしてさ。だからよーく目を凝らして見るとあの白衣、うっすら血の跡が見えるんだ。


初対面の人を脅かしちゃうから、出歩くときだけでも着替えなさいって言うのに聞かないの。


日向:何か思い入れがあるから、でしょうか。(それでも私は着れませんけど)


キモナシ:違う違う。またいつ外で、血を吸う現場に出くわすかが分かんないから、このままで良いって。ある意味プロ意識ってことなのかなぁ?

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