共闘

王:………馬鹿な。何故、何故お前は生きている!?機械人形は……チップを破壊すれば処分できるのでは無かったのか!答えよヘルム!


ヘルム:………分かり………ませ…ん。(記憶が……壊れて………)


リエル:………さない。


王:ええい、なら力強くで処分せよ!こんな出来損ないの人形など必要ないわ!


リエル:よくも……よくもヘルムさんを、壊したな!?もう許さない……!サイ、僕の全てをお前に預ける!だから……全員、壊してしまえ!!


サイ:…………あーあ。待ちくたびれたぜ、リエル。最初から俺様に任せりゃ丸く収まってたのによお!


イド:(もう、終わりだ。最後の枷が外れてしまった。リエルの人格すら消えて、狂魔士サイになってしまったんだ……)


(さっきまでリエルと呼ばれていた彼の表情がみるみる歪んでいく。第二人格、狂魔士サイが主導権を握ったのだ)


サイ:へへ……この時をずっと待ってたんだ、"親殺し"のチャンスをな!お前らを処分して……本当の意味で"最強"の魔道士になる為に。


?:(…………うふふ。随分面白そうな事、始めるのね。私も混ぜてよ、サイ?)


サイ:………あ?余所者はすっこんでろ!馴れ馴れしく人の名を呼びやがって……!


(サイが反論したその一瞬の隙をつき、"彼女"は身体を操るとイドへと近寄った)


?:…………お逃げなさい、イド。


イド:リエルが居ないのに、今更……どうでも……


?:安心して、リエルは無事よ。だからこそ、ヘルムさんを連れて城から出てちょうだい。次もう一度サイが主導権を握ったら今度こそ、城ごと吹き飛ぶわよ。


貴方なら逃げられるでしょう?


イド:信じて……良いのか。


?:ええ、もちろん。私、つまらない嘘は嫌いなの。さ……早く行って?あの子が暴れてしまいそうよ。


イド:すまない……!


(イドとヘルムが立ち去ったのを見て"彼女"はサイへ主導権を返した)


?:(ふふ………さて、お仕置きの時間ねサイ。私の即死の力も貸してあげるわ。せっかくリエルが頼ってくれたんだもの、徹底的に潰すわよ?)


サイ:るせぇ!新参者風情がこの俺に指図するな……言われずとも根絶やしだ……


"俺の上"には誰も立たせやしねぇ!


<数時間後>


?:…………もぅ。暴れるだけ暴れて寝ちゃったわよ、サイは。さすがにくたくただわ、ちょっと天使時代に戻った気分。でも、説明責任は果たさないと……ね。


………失礼するわよ、今戻ったわ。


イド:あ…………リエル……?大丈夫だったか……?


?:心配ありがとう、でもまず自己紹介をしておくわね。今貴方が話してる私はリエルじゃないの。私の名前はヌル。ええと……3人目の人格よ。ずっと前から中にいたんだけど、なかなか表に出ることはなかったから。


イド:何者……なんだ?あんた確か、あのサイを抑えてた、よな?あの狂魔師をどうやって………!


ヌル:私、今の身体に産まれる前は天使だったのよ。即死を司る力からアズラエルと呼ばれていたわ。純粋な魔力比で言えば、サイの魔力は私には遠く及ばないの。


イド:じゃあ………なんでずっと引き籠もってたんだ。なんで今まで助けてくれなかったんだよ?


もっと早く抑えてくれてたら……俺たちは………!みんなは………誰も死なずに、済んだかもしれないのに!


ヌル:……………そうね。


イド:それに、リエルに好き勝手されてるのを見て……なのに何もしなかったんだろ?


ヌル:否定はできないわね。


イド:そんな奴が今更何しに来た?手柄だけ横取りでもしに来たのか?偽りの感謝がそんなに欲しいか?


ヌル:…………さっき言ったわよね、私はつまらない嘘は嫌いと。


私は、ずっとサイの侵食からリエルを護ってきたわ。さすがの私でも、同時にいくつも魔力を利用することは出来なかったの。


今私がこうして表に立っているのも、リエルを護る必要が無くなったからよ。


イド:どういう意味だ……お前、まさかリエルを見捨てたのかよ?


ヌル:いいえ、リエルがサイを受け入れたのよ……闘う覚悟を決めたみたい。逃げるだけでは、自身を取り巻く状況は何も変わらないから。


リエル:何もせず見殺しにするのはもう嫌だ……徹底的に抗ってやる。それに、一人では勝てなくても……みんなと力を合わせれば、もう怖くない。大丈夫だよ、イド。僕は……サイとヌルと一緒に生きていく。


イド:……………リエル?


リエル:ありがとう、ヌル。全部聞いてたよ、そしてごめんね。今まで護ってくれてたのに……


ヌル:(良いのよ、それが私の役割だから。)


リエル:………ヘルムさん。ありがとう…お陰で助かったよ……


(リエルはそっとヘルムの頭を撫でた)


ヘルム:私に出来るの……は此処までです……どうか、このまま眠られせてください…………私の意識が、あるうちに………


サイ(おい、ちょっと身体を貸せ。なに、安らかに寝かせてやるだけだ。)


リエル:…………?うん、わかった……


サイ:お前が最後の獲物だ。長かった目的を、ようやく成し得る時が来た……


くたばれ、永久に………!


(サイが触れた瞬間、ヘルムの身体に雷が落ちた。頭部から煙が上がっている)


イド:やめろーーーーー!!


サイ:ひひひ………さらばだ、操り人形。


イド:ヘルム、しっかりしてくれ……!サイお前、何てことしやがる……!?


サイ:俺の上に立つ奴は全て排除する。魔導人形はそう何体も要らねぇよ……最強は、俺だけの称号だ!


イド:そんな………そんなくだらない理由で、ヘルムを殺したのか……!


サイ:本人たっての希望だ、テメェごときにとやかく言われる筋合いはない。それとも、消える瞬間まで苦しみ怖がらせるのが……お前の望みか?そんなもの、お前のエゴで奴を苦しめるだけだな。大事だと言う割に随分身勝手でご高承なこった。


リエル:……………もう止めて!


イド:!?


サイ:(ちっ、遮られたか……リエルのくせに生意気な。)


ヌル:(まあ、これが本当の主人格だからね、当たり前よ。)

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