人形と天使

限前零

ヘルムとの出会い(前編)

リエル:はぁ……はぁ……頭が…痛いよ……。


(痛みからか、彼の表情が歪む。それでも歩みを止めようとはしない)


イド:リエル……少し休めって…

(魔力の暴走とはいえ町を1つ壊滅させたんだから、どう考えたって力使いすぎだ。)


リエル:でも……町の人……僕を見る目が……怖い…だから……逃げないと……もっと遠くに…!


イド:落ち着けって。町からはだいぶ離れたから…な?あっこの湖で一休みしようぜ。誰も近くに居ないじゃないか。


リエル:……うん…


(湖にたどり着くと、張りつめていた気が緩んだのかそのまま気絶したようだ)


イド:(奇異の目に曝されるのは……おそらく俺のせいだ。暴走したリエルの力を押さえつけたのは良かったが…その時リエルの姿が顕になってしまった。傷ついた身体から見え隠れする機械を隠さない限り…落ち着くことは出来ないだろうな)


リエル:うう………(やめて…僕………もういじらないで……機械なんて………嫌だ……!)


イド:(正直リエルは手付かずだと思ってたんだが…甘かった……か。俺より酷い。どうにか隠すすべを…見つけねーと…)


(不審な人物が休む二人を遠くから眺めているようだ)


?:(見つけましたよ………被験者リエルとイド………片方は…どうも気絶してるようですね。マトモに手を出されると厄介なので好都合です。)


イド:…………!?なんだ…この感じ……

(身に覚えがある…まさか……殺り損なった…連中……か………?いや、そんなバカな…確かにあの建物に生存者は……居なかった。)


?:やあ君たち、野宿ですか?そんな所で寝たら風邪を引きますよ。


イド:…………忠告、どうも。

(おかしいな…こいつじゃねーのか?確かにさっき…"連中"の気配がした…とにかくこの場を離れるか……)


?:(リエルの身体に傷が……報告通り、覚醒の後遺症…ですかね?おそらく気絶も……)


イド:よい…しょっと…


(リエルを背負った時、イドの身体が僅かによろめいた)


(なんだ……目眩か……?

まあいいか…後で休めば。)………失礼する。


?:………ちょっと、待ちなさいな。


イド:………?なんだ、まだ何かあるのか?

(早く離れたいんだが…)


?:あなた…顔色が悪いですよ?そんな体調で、彼を背負って歩き回るのは感心しませんね。


イド:……別に、ちょっと疲れてるだけだ。このくらい……どうってこと…?


(もう一度身体がよろめいた所を男に支えられる)


?:おっと…危なっかしいですね……

流石に医者として見逃せません。すぐ近くに私の家がありますから、せめて明日の朝まで休んでいきなさい。


イド:(身体を弄られた身で医者に掛かるのは…避けたかったんだが………下手に逃げる方が怪しまれるか……?)………すまない。


?:(ふむ…以外と逃げないんですね。それとも、私が彼らの一員だとバレてないだけですかね?)


(家につくやいなや、イドはリエルを降ろすとその隣で寝てしまったようだ)


ええと…被験者リエル……

体力…1473/9999

魔力…0482/9999

まだ回復できてないと…あの威力ですからね。


被験者イド……

体力…0924/9999

魔力…0325/9999


イドの方が消耗が激しい……?たしか覚醒したのはリエルだけ、では?それに…よくこんな状態で立ってましたね……。私なら機能に支障が出るレベルです、比べてはいけないのでしょうが。


(少しして目を覚ましたリエル。謎の男が自分たちの情報を調べていると気がついた)


リエル:……?(ここ……どこ………?)

………………!!あのひと……なんで僕らの事………?)


イドも居ない……!


(パニックに陥ったリエルは脇目も振らず逃げ出した)


?:しまった…!待ちなさい…!


リエル:(イド………どこ……!まさか……あの人に捕まったの?そんな訳ない……けど、とにかく離れないと!)


?:…まさか初対面なのに……バレたんでしょうか?それでも…このまま逃がすわけにもいきませんし…


リエル:……!(追っかけてくる……どうしよう……イド………怖いよ………?)


(男に追われたリエルは足がもつれ、石に躓いて転んでしまう)


?:やっと……追い付けました…

ダメじゃ……ないですか…突然逃げては…!


リエル:…………解き……放て。

目標設定…完了。


……戦闘突入…排除せよ…!


(先ほどまでとはうって変わって追ってきた相手を睨み据えている。まるで別人のように)


?:えっ…!?(まさか……今の衝撃で理性が…?参りましたね…これ以上消耗すると、本当に死んでしまいます)


リエル:"俺達"に……構うな…!立ち去れ雑魚が………!


(リエルが手をふると小型ミサイルが現れた)


?:(覚醒のそれとは異なるようですけど…とりあえず落ち着かせないと……!)


(男は咄嗟に魔法障壁を展開しガードをするも、火力が高すぎて庇いきれなかった)


イド:………!?なんだ……この感じ……?

しまった…!リエルだな…?


気配は湖の方か…頼む、間に合え!


(家で目を覚ましたイドは、片割れの魔力に気がついて飛び出した)


?:………くっ……マトモに食らうと…流石の私でも……辛いです……。次また同じ威力を食らってしまえば…倒されてしまうでしょうね………(データを遥かに上回る威力、一体何が原因で……?)


イド:………居た!まさか……技を喰らったのか………?(何故…無事なんだ……?)


(駆けつけたイドの前には恐ろしい光景が広がっていた。激しい爆発で地形が変わってしまっている。その中心に立っていたのは……)


リエル:しぶといが、まあいいだろう。次で……終わりだ…!


(もう一度手を振る。先ほどより多数のミサイルが現れた)


イド:………もう止せ!これ以上は……!


(男の前に立ちはだかると全ての攻撃をモロに食らってしまう)


が………はっ……!


リエル:………!?イ…ド………?

どう…して…………?


その人は……敵なのに……………


イド:…………すまん…

彼に頼ったのは…………俺の方なんだ…。


だから……コイツは俺が殺る…

リエルは………もう闘わなくていいんだ、

とりあえず…収めてくれ…


(イドは耐えきれずそのままへたりこんだ)


リエル:………そう…だったんだ…

ごめんね……イド………


イド:……いい子だ、リエル。


?:すみません。助けてくれて…ありがとうございます。


イド:……リエルの手を汚させるつもりはない。それに……まだ…あんたが敵かどうかも………はっきりしないからな。


?:何故ですか?片割れの言葉ですから、信用しても良いのではないでしょうか……?私の正体について薄々、勘づいて居るのでは?


イド:………生憎、事実かどうかは……己の目で確かめる主義だ。今はまだ…俺の中に根拠はない。あいつが何を見て判断したかは知らねぇがな……

嘘でもあいつに攻撃しようとしなかったあんたを……無下にするつもりはないさ。


?:そう…ですか。(攻撃しなかったのはここで倒してしまうとデータが採れないから…なんですけども。むしろこの程度で倒れる兵器など実用に即しないとも思いますけど…)


イド:(目眩が……限界…か…………?)


(そのまま気絶してしまう。リエルが慌てて駆け寄った)


リエル:……!イド………起きて………


?:怖がらせてしまって申し訳ありませんでした。危害を加えるつもりは無かったのですが………


リエル:………あのね、僕もごめんなさい。何にも知らなくて…お怪我、だいじょぶ…?


?:……え?私は問題ありませんよ。機械の身体ですから。それより…彼もあなたも…傷だらけですし…お詫びといってはなんですけど、休んでいきなさいな。


リエル:……うん。あのね、ありがとう。


(寝床に腰掛けるも一向に眠る気配がない。見かねた男は探りを入れる事にした)


?:……眠れませんか?


リエル:………うん。……嫌な…夢を見るの。

いつも同じ………


街が…壊れて……人が…死んで……

僕は………僕が………手を………?

どうして……?


?:(それって……覚醒の時の記憶……でしょうか。ハッキリとは覚えていない……?)

ちなみに、いつからですか…?


リエル:………えっと…おととい。

その頃から……人に会うのが怖くて…

変な目で……見られるの…

だから……ずっと逃げてきた…


さっきも……身体が勝手に………

まるで夢みたい…僕が………僕じゃないみたい…?


?:(やはり…記憶が封印されて…?理性と無意識の拒絶反応の作用ですかね。制御できないという意味では、生体兵器としての実用は低いとしか…)


ふむ…奇異の目で見られるのは…

傷だらけのその姿かと。夢は…ただの夢です。事実である確証がないなら、気にしすぎない方が…。


リエル:………傷…?痛く………ないのに……


(リエルが自分の服を捲ると皮膚の間から金属の素体が見えている)


なに………これ…?


?:……それって……生体魔導兵器の…素体じゃないですか…。

なるほど…さっきの技は……


リエル:せーたい……何?よくわかんないけど………

嫌な夢は…もう1つあって…

たくさんの人に…身体を弄られる

夢も見たの。夢じゃ…………無かったのかな…?


?:……続きは…あなたの片割れが起きてからお話します。二人ともに聞いて欲しいので。


リエル:………!そうだ…イド………?

あのね………起きて?


イド:…………う……ん?

なんだ…?どこだ……………ここは……?(あの後の記憶がない。寝ちまった、のか……)


リエル:良かった!!お兄さんのお部屋だよ!


イド:……リエル…?

…そうか………元気そうだな…(良かった、いつものリエルだ……)


(だがリエルは抱きついたまま動かない。入れ替わるように気絶したようだ)


……訂正。無茶しやがって…馬鹿野郎…!


?:……やっと眠れたんでしょうか。彼は…


イド:……やっと…?そういえばこの2日…不眠不休だっけな……。とにかく逃げるって聞かねーから…


?:…いえ、そういう意味ではなく。

怖い夢を見て…眠れないと仰ってました。


イド:………?怖い…夢…………ねぇ。

それ、初耳だな。何て言ってた?


?:やはり…存じ上げなかったようですね。

ええと…街が壊れる様子とか…その類いの内容らしいです。


イド:………!?(まさか…サイの記憶が流れ込んできたのか?)

くそ………何もかも一人で抱えやがって…!


?:その表情は…何か心当たりがあるようですね。もしかすると、実際に起きたのではありませんか?


イド:な………!?何故それを知っている?

やっぱりお前は………。


?:先ほどの攻撃もそうですが…彼の身体を見れば…すぐわかりますよ。機械と融合させられた…生体魔導兵器…ですよね?


イド:…………!まさか本当に…

"連中"の仲間だった…ってのか?


一体…あんた………何者だ?


ヘルム:そういえば…自己紹介を失念してましたね。

私は各地を旅しながら、生体魔導兵器専門の医師を務めています、ヘルムと申します。


イド:……俺はイド。こいつはリエル。

なんだよ、兵器専門の医師って。普通の医師じゃねーのか?


ヘルム:機械と融合した生体を診るのは…普通の医師には不可能です。機械の知識も、医療の知識も必要で…なおかつ仕組みまで熟知していないと。

私は元軍属で…自らもまた兵器として使役されましたので。


イド:元…軍属………か。何故軍を抜けたんだ?


ヘルム:………壊滅させられました。現在の…ギヒノムと呼ばれる軍事国家に。


(ヘルムは目を伏せた。その横顔には深い悲しみの表情が見て取れる)


イド:(抜けた…というよりは拠る辺が無くなったのか…)…あ…そうか。リエルの攻撃を喰らって無事だったのは…そういうことか。


ヘルム:ご名答。もっとも………私はもう、肉体を失っています。完全な機械兵、でしょうか。


イド:………え?じゃ、じゃあ…とっくに…"死んでいる"ってのか……?


ヘルム:極論を言えばそうですね。とはいっても現に私はこうして存在しているので…死の概念は通用しないんですがね。


イド:……そっか。死なないのか、死ねないのか…もうわかんねーな。


ヘルム:医師にその話を振りますか……。死の恐怖に怯えることは無くなりますけど…それは同時に、人としての一線を越えて…ただの"道具"になってしまった………そんな気がします。

いっそのこと…この自我も記憶も無くなれば…楽なんでしょうが。


イド:………なんで…あんたは身体を失ったんだ?


ヘルム:……直接の原因は…ギヒノムの侵攻で多くの魔導兵が殺された事…でしょうか。その頃私は既に医師として後援に回っていました。回復要員を失う訳にいかなかったんでしょうね。半ば強制で…こうなりました。


イド:でも……結局、壊滅したんだろ……?なんで今も…続けてるんだ?


ヘルム:この十年…私は各地で傷付き迫害される魔導兵を秘密裏に助けてきました。

救えなかった同胞…国………彼らの代わりに救うことで、己の無力さを…紛らわせたかった。


…ただ、それだけですよ。


イド:………ちくしょう。人の命を………

なんだと…思ってやがる…。


俺らは……そんな事に、足を突っ込んだのか。舐めやがって…!


ヘルム:そういえば…何故リエル君はこの身体に?どういう関係なのですか?


イド:俺らは別件でさ…とある研究所に入り浸ってたんだけど……ある日、そこからリエルが拐われたんだよ。


俺は奴等を追っかけて……捕まってしまってさ。

それでも何とか奴等を皆殺しにして脱出したけど………手遅れだった。


ヘルム:ちょ…ちょっと待ってください。そもそもイド君………あなたは、完全な生身なのでしょう?皆殺しって…(記録では、暴れたのはリエルの方だったはず。どういうことなのでしょう)


イド:………魔法…だよ。

俺もリエルも……元から魔法が使える。その力がありゃ…大の大人だろうと雑魚として一掃するのは簡単なこった。

さっきのリエルの攻撃もほぼ魔法で防御してた。さすがに俺でもそのまま食らったら逝ってたよ。


ヘルム:まさか……そんな事って。

噂には聞いたことがありますが…。とある国のには強い魔法を使える、忌むべき一族が居ると………

いえ、失言ですね……すみません。


イド:忌むべき……ねぇ。

(相変わらず好き勝手言いやがって…当人の気も知らねぇで。)


ヘルム:しかし……その一族は…

私の知りうる限り、とっくに滅んだと聞きました。


イド:………ふっ。あんた意外と物知りなんだな。

まあいいか、今更…隠す必要もねーな。

いかにも…俺らが忌むべき一族…"ウェパール"だ。


ヘルム:……ふむ。まさか別件とは…その魔法絡みですか?(滅んだはずの忌むべき一族が被験者に……偶然なのかそれとも……)


イド:……ああ。抑える術を…模索してた。

(主に…リエルの、だが)


ヘルム:魔法を抑える……何故またそんな事を?


イド:………別人格が宿ってるんだ、リエルには。災厄の名を取って…サイ・ウェパールと呼ばれている。

主導権の強さは向こうが上でな…元々闘いを嫌うリエルだが自分では到底抑えられない上に、強すぎる力と強欲さで味方すら平気で手にかけるような狂魔士だからな…抑えざるをえなかった。


ヘルム:それって……さっきの?

言われてみればどことなく違ったような…(威力が跳ね上がった理由、変貌した態度……もし、それを知りながら被験者に利用したとするならギヒノムの真の目的は……!?)


イド:そうだな。抑えてたからあんなレベルで済んだし正気を取り戻せたけど………本気なら俺でも止められないだろう。

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