それは夢の中

先生:起きてください…地べたで寝ると風邪引きますよ?


(部屋を訪れた先生は、床の敷物の上でうたた寝しているリエルを起こしているようだ)


リエル:…………ゆめ………?

せんせー……だよね?


先生:……はい?私が何か…


(リエルは泣き出してしまった)


リエル:あのね…せんせーが、悪い人に……殺されちゃう、夢を見たの……イドさんも僕も…どうすることも……出来なかった………!


先生:お、落ち着いてください…!私は此処に居ます。無事ですから…ね?


(抱きしめたリエルの身体は、小刻みに震えていた。よほど恐かったのだろう)


リエル:ううっ……怖いよ………。イドさんもせんせーも………何処にも行かないで…僕を、独りにしないで…………!


先生:………?あの…亡くなったのは、私だけでは?その口振りでは…イドも亡くなったような感じがするのですが。


リエル:あのね、イドさんも………死んじゃった。僕だけ死ねなくて独りぼっちだったの…………寂しかった。


先生:……死ねなくてですか……?まさか試したとか?(夢であってもさすがに看過しがたいですね)


リエル:あのね、せんせーと同じ……機械の身体になっちゃって。寿命とかなくなっちゃった。


先生:でもそれは…矛盾してませんか?リエルが死ねなかったならば何故私は…


リエル:よくわかんないけど……何か壊れちゃったって。なんだっけ……"ちっぷ"……?


先生:何でしょう…基盤が壊れてしまえば、確かに動かなくなりますけども………生物としての"死"とは全く異なる気がします。交換できない唯一無二の部品ならともかくですが。(ううむ、いまいち要領を得ませんね……)


リエル:……!そうだ、"じんかく"が記憶されたちっぷって言ってた。だからかな?でも…"じんかく"ってなんだろ。耳で聞いただけじゃ、わかんないよ…


先生:"じんかく"………?(まさか、人格…でしょうか?一体どんな仕組みなのでしょうか…)簡単に言えば記憶や性格、心全てをまとめた呼び方でしょう。確かにそれが壊れてしまえば…"死"と判断するのにも合点がいきます。


(通りすがりのイドが話に混ざりに来たようだ)


イド:お?珍しいな……2人で何を話してんだ?(リエルの様子を見た限り、楽しい話とは……違うようだな)


先生:リエルが見た夢の話ですよ。私とイドが夢の中で死亡したと…。気になって色々聞かせてもらってたんです。


イド:へ?正夢にならねーだろうな………知り合いが二人も逝くなんて、滅多にないだろ。


先生:いえ……それはさすがに無さそうです。私とリエルは機械の身体になってたそうで。


イド:………ふーん。俺の身体みたいなもんか?これ、一応機械だろ?


先生:どうなんでしょうか。そもそも私の死因が…人格を記録したチップが破損してしまったから……と聞きまして。


イド:………チップ?じゃあ違うな…。しかしまあ…設定がぶっ飛んでて、何か1つの物語っぽいな。(安全を確保できたおかげもあって想像力が養われたという意味では、やっぱあの時に先生の誘いに乗ってよかったな)


先生:確かに。夢見の悪さがたまに傷ですが…実に興味深いですね。


イド:………ちなみに俺の死因は?


先生:そういえば、まだ伺ってないですね。マトモな死因であることを願いたいものです。(マトモの定義が揺らいでしまいそうですが……)


リエル:………あのね、イドさんは…"ろうすい"だって。んと……"まほう"の使いすぎ……だっけ。


イド:………魔法使いだったのか、俺って。(エーテル使いの今とさして変わらないのが…リアリティーがあって恐ろしいな……)


先生:(確かに……身体に負担を強いるところも一致してるのが何とも言えませんね。)老衰って……それでもそれなりには生きたのでしょう?


リエル:えっとね……50年………65才だった。イドさんが死んじゃったの。せんせーは、僕らが15才の時。


(指折りで数えているようだ)


イド:上等じゃねーか……夢にしちゃ、随分長いのな。


先生:…確かに。そこまで短命でなくて少し安心しました。(あくまで夢ですが…)


リエル:あのね…イドさんが死んで、ずっと独りぼっちだったの。気が遠くなるくらい………最後は僕、何才かもわかんなくて。目が覚めなかったら、ずっとあのままだったのかな…?

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人形と天使 限前零 @rieru_sai

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