明かされた過去
乙梨:……………!(今の、夢は………?)
(天野に付き添ったまま、いつの間にか眠っていた乙梨。妙な夢を見て目を覚ましたが……)
僕は………この病院に、来たことがあるの?一ノ瀬さん、日向さん……会ったことあるのに…
忘れてる?いつの話なの?夢なのに、本当のことみたい。
そうだ………!僕が、大怪我した日…日向さん、連れ帰ってくれた。初めて誰かを信じたの。
雨龍や重悟よりも前だったんだ……そんな…どうして忘れてたんだろう?それに、どうして知らない振りしてたの?
………知りたい。おじさんの、一ノ瀬さんの所…行かなきゃ。
(乙梨は思い出した過去の記憶を頼りに、一ノ瀬の研究室を訪れた)
……あのね、ちょっと教えてほしいの。
一ノ瀬:!?ど、どうしたの?(何故僕が、此処に居るって分かったのかな……)
乙梨:おじさん……ううん、一ノ瀬さん。"3年前"の事……覚えてる?僕ね、大怪我して…此処に来たことがあるの。
一ノ瀬:まさか……記憶が蘇ったの?
乙梨:うん。さっきね、雨龍の側で寝ちゃってて……夢を見たの。
狭くて暗い路地裏で、僕は動けない位酷いことされて……血がいっぱい出て、とっても痛かった。
そこまでは……覚えてたの。だけどね、その後の思い出が出てきたんだ。
一ノ瀬:その後の……思い出が?
乙梨:えと…気付いたら日向さんがね、僕のこと覗きこんでて……。声、掛けてくれてた。
知らない人だから、逃げようとした。何にも考えられなくて、ただ怖かったから。
でもね、結局僕は日向さんに従ったの。怖くないって分かったから。
一ノ瀬:………どうして、怖くないって思えたの?
乙梨:あのね、僕……相手の思いが視えるの。大怪我する前は、眼鏡掛けてても使えたんだけど…
大怪我してから、眼鏡を掛けたら見えなくなっちゃったの。血で眼鏡が外れたとき……日向さんの思いが視えてね、そのまま安心して寝ちゃったの。次に起きたら……
一ノ瀬:この病院にいた、んだね?
乙梨:うん。でもね、どうしても分からない事があるの。なんで僕は、こんな大事な思い出、忘れちゃったんだろうって。
一ノ瀬:人は、忘れる生き物だからさ。もちろん、忘れる事にも大事な意味がある。嫌な事を忘れるのは、自分の心を守るためだ。
僕たちの事を忘れたのも同じ理由から。命の危機に瀕するような出来事は、思い出す度、心にダメージを与えてしまう。
だから、その出来事に関わる一切の記憶が丸ごと思い出せなくなってたの。
乙梨:一ノ瀬さんは、覚えててくれたの?
一ノ瀬:当然さ。自分が担当した患者の事は忘れないよ。でも本当は明かすつもりは無かったんだ。
乙梨:…………どうして?
一ノ瀬:徒に思い出させて、良いことなんか無い。忘れないと心が壊れてしまうかもしれないから忘れたのに…それを蒸し返すのは、一番やってはいけないんだよ。本人の了承無くしては。
乙梨:僕は………いけない事したの?
一ノ瀬:大丈夫、悠人君は悪くない。むしろ独りで抱え込まず、よく僕に話してくれたね、ありがとう。
辛い記憶を、誰かに話すのって…凄いことなんだよ。話す事は、抱えていた思いを誰かに放す事。信頼してなければまずできないからね。
その記憶、改めて僕も背負うよ。怖かったこと、安心できたこと……信頼してくれた気持ちに応えよう。
乙梨:うん、ありがと…一ノ瀬さん。
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