再会と感謝

(日向は乙梨を連れて、とある部屋を訪れた)


日向:失礼します、一ノ瀬さん。天野君は……?


一ノ瀬:今は……眠ってるよ。ちょっと前に発作が治まった所さ。


(一ノ瀬が振り返ると、日向の後ろにいる見馴れない子供の姿を見つけた)


………その子は?


乙梨:あのね、はじめまして。乙梨悠仁です。雨龍を捜してここまで来たの。


一ノ瀬:へぇ……そっか。初めまして、僕の名前は一ノ瀬。一応天野君の主治医、ってことになるのかな。


乙梨:(主治医……?もしかして、このおじさんってお医者さん………?)


一ノ瀬:………どうして、そんなびっくりしてるの?急に顔色が変わったけどさ。


あ、天野君の調子が悪いからびっくりしちゃった?


(乙梨は見るからに不安そうな顔になった。天野が医者にかかる事態が、一番あり得ない事だったからだ)


乙梨:あのね、教えてほしい。おじさんってお医者さんなの?


一ノ瀬:………うん、そうだよ。ついでにいえば、そこの日向君も…お医者さんだけど。


乙梨:………じゃあ、どうして……雨龍の側にいるの?


一ノ瀬:どうして……?何を説明すればいいのかな……天野君と出会った経緯?それとももっと本質的な……天野君を相手にしてる理由?


乙梨:………あのね、全部知りたい。だけど一番知りたいのは……どうしてお医者さんなのに、雨龍の事、見てくれてるの?


一ノ瀬:(やっぱり本質的な話、なんだ。天野君と話をしてたときもちょっと気になってたけど…)


分かった。順序だてて話そうか。天野君とは二日前、地下水道で出会ったんだよ。


その時ひどく苦しそうでさ、とりあえず連れて帰ったの。治療がてら話しはしたから…天野君がマトモな扱いをされてなかった事は知ってる。


乙梨:………じゃあ…それを知ってるなら……


一ノ瀬:生憎、僕には関係ない事さ。僕は天野君を助けたいと思って、そうしただけ。


あのおバカさんがどんな御触れを他の連中に出してたか知らないけどさ。僕は彼奴の配下でも同期でもない。自由な存在。だから助けたの。


乙梨:………そっか。ありがと、おじさん。


(気が付いたら、乙梨の頬を涙が伝っていた。安心したからなのかあるいは……?)


一ノ瀬:泣かないでよ、乙梨君。こっちに来て、天野君の側に居たげなよ。その方が彼も安心できるだろうしさ。


乙梨:………ごめんね、雨龍…!あの時一人にしなかったら………


(泣きながらしがみついている乙梨。彼の言葉に秘められた真意を知る人は誰もいなかった)

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