戦う理由

乙梨:うっ………!うが…………あっ…!?


(それまでの俊敏な動きとはうって変わって、乙梨は急に両目を押さえて苦しみだした。)


…………ああ……あた…ま…………がっ……………見えない………


神是:(………!様子が変わった……また何か仕掛けて来る気か?さっきは転倒したと思ったら強烈な蹴りを喰らわされた……今回も何か……)


日向:しっかりなさい!何があったのですか!?


(構えを解いた日向が乙梨に駆け寄る。間一髪の所で抱き抱えたが…意識を失っているようだ)


神是:………日向さん!危険です、離れてください……


日向:大丈夫、です。既に彼の意識はありません……このまま連れて帰りましょうか。


神是:し………しかし…せめて"抑制剤"は打っておかないと、次にこいつが何をしでかすのかわからないんです。


日向:………今の彼に必要なのは、抑制剤ではありません。十分な安全の保証、対話…それだけで十分。


手合わせの直前、彼が私たちに何を語ろうとしていたのか…?聞けばおのずと手を収めてくれますよ。


神是:どうして、そこまでこいつを信じられるんですか。


日向:どうして……ですか……。それは、彼の動きを見れば分かります。計算されたあの動き、相当頭の切れる人物であるのは容易に推察できます。


そんな思慮深い人間は、無闇に多くを語りません。油断を誘う、という選択も…あの時点では不要。


彼にとって、はなから私たちと手合わせするつもりは無かったのでしょう…。


(言葉を切ると、傍らで倒れている"もう一人"の方を見やる)


さあ、戻りますよ。手伝ってください、樹。


神是:(………学校で見掛けるあいつは、そんな奴ではなかった。むしろ何も深く考えない、浅はかな言動が目に余るような奴だった。


…………だからこそ、俺は恐れている。次に目を覚ましたとき、追い詰められた奴が…何をしでかすのか…)


…………分かり、ました…。

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