天野の記録アナザー1
天野:(………また、発作の予兆が…これじゃ治まる迄は動けないな………)
(踞る天野の前を妖体の一ノ瀬が通りがかった。)
一ノ瀬:………こんな所でじっとしてると、悪い人に捕まるよ。僕みたいな、ね。それともとっくに死んでるのかな?
(悪戯っぽく笑うと一ノ瀬は、天野の首筋に手を添えた)
天野:(誰か………触ってる…?)…………誰、ですか…………?
(苦しそうな表情のまま、天野が顔をあげて一ノ瀬を見た)
一ノ瀬:(………!この子、妖体の僕を…感知出来るのか……。実に興味深い逸材だ…)
……動かないで。ちょっと診させてもらうよ?(……軽く脈を採っただけで、こんな酷い乱れ方をしてるなんて…。すぐ処置しないと、さすがにまずいかも知れないな)
時間がない、僕の病院へ案内するよ。話はそこでしようか。
(天野は軽く頷くと一ノ瀬に身を委ねた。相手が人ならざる者であることを承知の上で…)
天野:(………誰かわからない、けど…俺を助けてくれる……のか………?)
(一ノ瀬は迷うことなく地下水道の立ち入り禁止区域を通っていく。幾つかの戸を経て、ようやく研究所らしき所に着いた)
(この街、研究所なんかあったっけな…………でももしあるとすれば、あれは確か…………廃病院だっけ……)
(そんなとりとめもない事を考えていると、気付いたら病院に着いていたらしい。検査や問診で気をとられ、それ以上何かを考える余裕はとりあえず無かった)
一ノ瀬:(………へぇ。そこまで解ってるのに、怖いとも…逃げようとも思わないなんて。本当に興味深い子だね)
ね、君の名前…教えてよ。
天野:…………天野…雨龍、です。
一ノ瀬:そらの…うりゅう……君ね。
(一ノ瀬はその名前から、とある病院に登録された患者のカルテを取り出した)
どうして……あの場所に一人で居たの?これを見る限り、入院しててもおかしくない容態なんだけど。
天野:…………お金が払えないので、入院はできなくて………。それに…この状態で誰かに見つかりたく、無かったんです……
一ノ瀬:へぇ、どうして?あのままだったら君、死んでたかも知れないのに。
天野:これ以上……誰かの玩具として苦しむ位なら、いっそのこと……(生きるために、虐げられるのは…もう嫌だ………)
一ノ瀬:(………ああ……そうか。この子が僕を拒絶しなかった理由。僕が人間じゃないから、なんだね……)
そのわりには、僕を信じてついてきたんだね。もし死にたいと思ってたなら……拒絶するかと思ったよ。
天野:("あの噂"が本当なら……死ねると思ったと言ったら、怒られるかな)
一ノ瀬:………ちなみに。僕は見て分かる通り、人間じゃない。だからさ……君の心の声が、聞こえてるのよ。
天野:(………!?まさか………今の、聞かれてたのか………)
(動揺した天野は言葉を継ぐことができないようだ)
一ノ瀬:最初からずっと……君の声を聞いていた。ずいぶん察しが良いとは思ってた反面、不思議だったんだよ。
どうして君は……僕の正体を見て、この場所の秘密も気付いてるのに逃げようと思わないのかなって。
助かりたいと思うならむしろ逃げた方がいいに決まってる。それに…君が言ってるあの噂ってのは……おそらく"人体実験"の事だよね?
確かに一番最初、君が僕に気付かないなら……被験者として連れ帰ろうと思ってたんだけどね。
だけど、気が変わったんだよ。妖体の僕を見れる人なんかそう居ない。もう少し、君の事が知りたくなった。
だから被験者としてじゃなくて、患者として連れ帰ったの。
天野:じゃあ………僕を死なせては、くれないんですか?
一ノ瀬:うーん………ただで死なせるつもりは、正直言ってないよ。
(少しだけ、天野の表情が翳った。やはり死にたいと思う気は拭えないらしい)
天野:…………そうですか。ごめんなさい、助けてくれたのに………
一ノ瀬:………そうだ。なら一つの賭けをしないかい?成功すれば君は晴れて元気になる。ただし失敗したら君は死んじゃうけど。ね、面白そうじゃない?
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