天野の記録2

意を決して中に入る。噎せかえるような埃と黴の臭い……懐中電灯の明かりを頼りに、手始めに受付を訪れた。


想像以上に、色んな患者のカルテが残されていた。だが……肝試しに来た連中の仕業だろう、破られたり落書きされて…地面に散らばっていた。


一応それらに目を通すと、揃えて机の上に置いといた。


……一つだけ、保存状態の良い、引っ掛かる内容のカルテがあったが……今の俺が調べるべき目的には関係ないから無視した。


さっきから、誰かの視線を感じる気がする。だが恐れるようなものではない……


俺が不正をしていないか、大方奴等が後をつけているんだろう。つまりこの場所に関わる噂は嘘っぱちだと知っての事か…………?


お陰で恐怖心は綺麗さっぱり失せたわけだが、良いことばかりでもなく。先ほどカルテを調べたあとから………どうも具合が良くない。


だが、こんな序盤で貴重な薬を飲むわけにはいかないのだ。現地調達でもできれば話は別なのだが………


廊下を進んでいると、診察室があった。馬鹿馬鹿しいとは思ったが、自分が持っている薬が残されていないか……一応捜してみることにした。


薬棚とおぼしき場所を探るも、包帯や消毒液が僅かに残っているだけだった。


諦めた俺は、少しでも発作の苦しみを押さえようと……埃まみれの診察台に横たわった。


だが……どうやらそれは失敗だったらしい。症状が治まるどころか悪化してしまい、とうとう意識を失ってしまった。


次に目が覚めた時、俺は薄暗い病室に寝かされていた。


発作も治まっている……訳がわからず辺りを見渡すと、看護婦が病室の外に出ていく所だった。


少しして、白衣を着た医者らしき人が俺の元にやって来た。


その医者は、俺が何故ここに居るのかと問いかけた。


話を聞くと、驚くべき事実が明らかになった。どうやらこの病院、体制を変えて妖怪病院として今も続いているらしい。


その医者の名前は一ノ瀬。この病院の院長をしているのだとか。


人間の俺がぶっ倒れている所を見かねて保護してくれたのだ。


発作が治まって、身体が楽になった俺は……全ての事情を打ち明けた。その上で無断侵入したことも謝った。


一ノ瀬は怒るでもなく、俺の説明を聞いてくれた。


その上で忠告された。万が一妖怪に見付かっていたら君は殺されていただろう、と。


それに、俺が持たされていたあの薬だが……実は毒薬だったと教えてくれた。


いくら発作が治まったとはいえ、夜にこの院内を移動するのは危険が伴う。


だから、朝まで休んでいくように…と指示された。俺はお言葉に甘えて、もう一眠りすることにした。


そして朝、俺が目を覚ましたとき……違和感を覚えた。昨日とは違う病室に居たからだ。


側に付き添ってくれていた看護師に話を聞くと、俺がこの病院前で倒れていたところを搬送されたらしい。


首をかしげていると、担当医と名乗る人が俺の元にやって来た。


その瞬間、俺は驚きを隠せなかった。何故なら……そこに居たのは、一ノ瀬だったから……

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