天野の記録1

俺はある日、町の廃病院を探検することになった。無論、一人で。


俺は昔から発作持ちだったから……当然最初は拒絶した。万が一途中で発作が起きりゃ、命の保証はないからな。


………だが、結局こうして俺は今。その条件を飲んでここにやって来た。


幼い頃に父親を亡くし、母親の僅かな稼ぎでようやく生活しているような状況で……


俺の身体は父親譲りの発作持ち。当然金を工面出来るわけもなく。


そんな状態で、どうやって今まで生きてきたのか……だって?


俺のクラスには、町一番の腕を持つ医者の息子がいた。そいつに頭を下げて……工面してもらってた(免除)んだよ。


その代償として、ずっと虐めに堪え忍んでいたんだ。


幸か不幸か……この町で俺の発作に応対出来るのはその医者だけだった。


だから、拒否権なんか最初から無かったんだ。


さて……どうしようもない事を考えるのは止そう、今は生き永らえる為にも…条件を満たさねば。


条件1:病院を隅々まで探索し、ある噂を確かめてくること。


条件2:途中で外に出たら無条件で失敗と見なす。発作を抑える薬は、一度分だけ用意されているが……


条件3:なお、探索の証拠としてそれぞれ指定した物品を持ち帰ること。


……正直言って、40年以上前に廃業した病院に何かが残っているとも思えない。


おまけに確かめてくる噂だが……


"昔その病院では危険な人体実験が行われており、その証拠となる資料や標本が……今もそのまま保管されている"


という突拍子もない話だった。それに、


"未だにその保管場所に出入りする不審な人影を見た"


"病院が健在だった頃には知られていない隠された地下室がある"


"夜中に悲鳴のような、甲高い声が響いた"


………等々、叩けば埃がわんさと出てくるような曰く付きの場所だ。俺を殺す気なのは目に見えている。

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