第3話
案内された部屋に入ると、動く気力もなく布団の上に倒れ込んでしまった。目を閉じると今日見たものが滝のように頭の中を流れていく。
いつも学校から帰ると自分の身長のことに文句を言っていた妹。ゲームの相手をしてもらえない、身長ネタのいじりをもうできない。そんな日が来ることを俺は考えたこともなかった。生暖かい液体が目から流れ出て、頬を濡らし、口の中にしょっぱい味が広がる。
目覚ましはなかったが、いつもの生活リズムのおかげで6時過ぎに目が覚めた。いつもと違う天井。家族で旅行に来たのだと思いたかった。しかし、俺の着替えていない服のせいで昨日起きたことは実際起きたのだということを悟ってしまう。涙が昨日流れたルートを通って口元までくる。涙をぬぐい、起き上がって部屋を見渡す。きれいに片付けられている机の上にはTシャツとジーパンがあった。用意されていた服を持ち、シャワーを浴びに行く。頭の上から温かいお湯がかかってくる。頭皮に髪の毛の中を通ってきた温水が当たる。今まで風呂がこんなに気持ちの良いものだと思っていなかった。
用意されていた服に着替え、シャワー室を出る。時計は7時を指している。さほど遅くはないのに空腹感に襲われる。考えてみれば俺は昨日の昼からなにも口にしていない。腹からぐぅぅーと音が漏れる。何か食いに行きたいが、勝手に部屋の外に出るのは気がひけるし、だいたいここがどこなのかわからなかった。
「三河さーん起きてますか?」
昨日聞いた覚えのある女性の声がノックと共に聞こえてきた。できるだけ明るく応えようと思い、とりあえず「はい。起きてます。」
と答えたが、暗い声しか出てこない。
「お腹。減ってますよね?食べに行きませんか?何かお腹に入れると少しスッキリすると思いますよ。」
実際お腹が減っていたのでボソボソと行くことを伝え、軽く準備をして部屋を出る。
案内されたのは同じ施設内にある食堂だった。
「なに食べます?」とその女性はその日あるメニューの前で立ち止まって訪ねてきた。
ボソボソとサバ定食と応えると空席を見つけ、俺にかけておくようにと言った。
五分後、あの女性は俺の目の前に一つ、彼女の目の前に一つサバ定食を置いた。
「もう一回自己紹介をしますね、私は広瀬百合と言います。よろしく。」
広瀬さんは俺の方をじっと見つめている。慌てて
「三河白泉です」
とこれまたボソボソ応える。広瀬さんは嬉しそうに
「ありがと。さ、食べよう。早くしないと覚めちゃうよ」
と言い俺の方にお盆を寄せてきた。
「聞きたいこと多分たくさんあるだろうから少しずつ説明していくね」
彼女曰く、数十年前にアメリカの超能力の研究者が偶然魔法というものを発見した。日本、アメリカなどを含む数カ国で研究が行われ、数体の「不完全体」が完成したが、管理不足により完成した十体ほどの人工魔法使いの内男女合計三体が脱走し、未だに発見できていないらしい。
この不完全体は体内で十分に彼らの力の元となるBBF(blue blood fuel)を生産することができない。しかし人間をはじめとする他の動物にもこのBBFは微量含まれており、彼らはBBFを含む動物を襲って暮らしていると思われる。実際この研究所から人工魔法使いが脱走してから各地で行方不明事件が増えており、彼ら人工魔法使いたちの総数は毎年増え続けているらしい。
そして新兵器である人工魔法使いの完成間近になった国はこの人工魔法使いを制御できるように警察庁直属の特殊兵器制御局を設立した。百合さんはここの構成員らしい。
ここまで説明すると広瀬さんは一旦話を区切って水を口に含んだ。
「じゃあ俺の家族は国の管理不足のせいで死んだんですか?なんでこのことが公表されてないんですか」
俺は管理不足なんて問題で家族が殺されたなんて考えたくなかった。
「多分この国もこの研究に関わっていたから、こんな不祥事を起こしたことを知られる前に問題を解決したかったんだと思う。」
面子を守るために情報を出さなかったなんて。
この後は黙々と出された食事を食べ、再び同じ部屋に案内された。
マスコミ対策をするために家には帰れないと言われた。
広瀬さんが部屋から出ると俺は自分の布団に倒れ込み、今日与えられた情報を整理しようとした。
この数日後、政府より正式に事件の詳細が明かされた。
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