第33話――全部バレた

 天王寺家のバカンスから帰宅した次の日、咲良の家に宿題を持って行くと、そこには塚っちゃんと長瀬君もいた。


「あら、二人もいたの?理系科目得意な塚っちゃんがいると、助かるわ。」


「ついでじゃないけど、塚っちゃんを家に呼んでお母さんに紹介したかったの。」


「なるほどね。」


「それより結月、今日のことでたくさんラインしてごめんね。体調崩していたって知らなかったの。」


 はて、何のことだろう。今日咲良と宿題することは、前から決まっていた。

 咲良から圏外の時も含めてラインは来てたけど、大した内容じゃなかったような気がする。


「既読がつかないから、剣道部の何かかと思って。塚っちゃんに電話しても知らないって言うから、長瀬君に電話して、長瀬君が凛先輩に電話してくれて、凛先輩が私に電話して下さったのよ。結月が寝込んでるって。塚っちゃんを長瀬君と結月と一緒に家に呼んだらってアドバイスしてくださったのは凛先輩なの。それで結月にしたかった相談が解決したのとほぼ同時に連絡とれるようになったけど、病み上がりだから心配させたくなくて。もう大丈夫なの?」


 なんですって!実は家族には天王寺家の別荘じゃなくて、咲良の家の別荘に行くってごまかしていたのに!咲良と塚っちゃんと長瀬君、この三人のお互い電話番号まで知ってる連絡網を甘く見ていた。完全に凛姉にはバレてる。道理で昨日は私のことをチラチラ見てると思った。お別れしたダメージが意外にジワジワ効いて、気が回らなかった。

 期間限定でなかったら正直に言ったかもしれないが、別れる予定の彼氏と、その家族とバカンスに行くなんて言いにくかったんだもん!ヤバイ、凛姉になんて言い訳したらいいのか……。いや、言い訳はできないだろう。……多分。



 なんとか宿題会を乗り切り帰宅すると、凛姉はリビングでテレビを見ていた。


「ただいま。凛姉、今日はバイトないんだ。」


「…ないわよ、というか休んだ……。」


 顔はテレビの方を向けたままだけど、殺気がだだもれている。


 …もうダメだ……。完全にロックオンされていて気がつかないふりはできない。


「浮かれて帰ってきたなら、知らんふりしていてあげてもよかったのよ。なのに、昨日からしょんぼりして口数も少ないし。一体どこに行ってて、何をしていたのよ!心配したじゃないの。全部白状しなさい!」


 つかつかと寄ってきた凛姉に首元を締め上げられ、すぐに観念した。

 下手な言い逃れはできない。全部正直に言って、お許しを願うほかない。


「実は四月に天王寺先輩に頼まれて、……。」


 期間限定で彼女役をして、おうちに伺って、その見返りとしていろいろと便宜を図ってもらって、最後の仕上げ的に別荘に招待された。でも、納得ずくだった。しょんぼりしてたのは、天王寺家の皆さんを騙しているのが心苦しくて、彼女役をお終いにしてきたから――。


「なんですって!天王寺のやつ、許さんっ!私の妹になんてことを。闇討ちして簀巻きにして堀に放り込んでやるわ。私だけだと返り討ちにされるかもしれないから、悠人と二人掛ふたりがかりでいけば大丈夫よっ!」


「止めてよ!もうちゃんと終わりにしてきたんだから。私だって天王寺先輩のことは好きだったし、天王寺先輩も初めは私と咲良がつきあってるのかと勘違いしてたけど、最後には本当に彼女にって言ってくれたの。」


「じゃあなんで、めでたしめでたしにならないのよ。」


「だって私、いい加減な人間なんだもん。天王寺先輩のことも好きだったけど、彼女役してなかったら、もしもだけど塚っちゃんや長瀬君や咲良、それら箕面君とか先輩の弟の颯君に告白されてたら、はいよろしくお願いしますって言ってたと思うんだもの!凛姉みたいに自分の心がはっきりしてる人にはわからないよ!」


「バカじゃないの!いつも言ってるでしょ。私はいついかなる時も私の味方をしてくれる人で、好きだって言ってくれる早い順で決めるって。淀屋橋が浮気してなかったらまだつきあってたかもしれないし、今では悠人のこと大好きだけど、あの時告白してくれたのが剣道部の男子だったら天王寺君でも塚本君でも誰でもOKしてたわ!」


「ええっ!マジで!誰でもいいの?」


「決めてることに合えばね。全く知らない人は、ちょっと考えさせてもらうけど。結月、運命の人は一人じゃないのよ。たっくさんいるの。だから、こっちが告白したいほど好きな人がいないなら、好きですって言ってくれた人と取りあえずつきあってみればいいのよ。ダメだったら別れればいいんだし。」


 …そういえば咲良もそうだった。


「つきあってる人がいたって、他に好きな人ができたって別れるカップルはいるじゃない。学院にはランクの高い男子が多いから、誰だって迷うわよ。天王寺君は部活中、結月のことを気にしてよく見てくれてたじゃないの。ごめんなさいして、つきあってみなさいよ。」


「確かに天王寺先輩には部活以外でも助けてもらったり、助言してもらったりしたことはたくさんあるよ。でも、つきあってもいいって思う人はたくさんいるって正直に言っちゃったから、きっと呆れてるよ。…今回のことは精神的にダメージ大だったの、しばらくは大人しくしていたい。」


「そんなこと言って、あんたに告白するもの好きが、天王寺君でお終いだったらどうするの!せめて告白されたら『無理だわー』でなければ誰でもいいからつきあってみなさいよ。せっかくなんだし!」


「せっかくって……。わかったよう。今度からはそうする。今度からはね。」


 ◇◇◇◇


「凜さん、電話なんて珍しいね。どうしたの。」


 悠人のうきうきして嬉しそうな声が聞こえる。かわいいわね。

 だけど今は大切な妹の一大事。期間限定は省いて、結月と天王寺君の仲が上手くいかなくなったことを説明すると、思ったほど驚いていない。


「一年生の女子たちが噂していたのは本当だったんだ。部活中の態度では全然わからなかったから、信じてなかったけど。」


「それで、私が天王寺のやつを闇討ちするから、悠人は助太刀してくれないかしら。一人だと返り討ちにされるかもしれないし。」


「ちょっと待ってよ凜さん。俺が天王寺先輩にそれとなく話を聞いてみるから、闇討ちとか止めて。誤解かもしれないじゃないか。どうしても納得いかなかったら、部活中に二人掛でやっつけよう。結月も手助けしてくれるだろうし、一年女子は結月の味方だよ。」


「悠人一人じゃ無理なの?」


「ちょっと無理。」


 悠人の沈んだ気の重そうな声が聞こえる。ごめんなさい。

 だけど今は大切な妹の一大事。


「こんなこと相談できるのは、悠人しかいないの。」


「まかせて、明後日から部活あるから、その後で話を聞いてみるよ。大舟に乗った気で待ってて。」


 頼もしい声。ありがとう、悠人。だって大切な妹の一大事なんですもの!

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