第32話――後悔はいつも後から
結月のことを初めて意識して見たのは、多分あいつが初等部の六年の時。
中等部の俺が、初等部の時の担任に用があって職員室に行く途中、藤棚の下で女子が二人で友情を誓い合っていた。女子って面倒だなと、すぐに忘れたけれど、一年後に部活の後輩になった結月を見たとき、あの時の一人だとすぐに気がついた。中等部でもいつも西九条さんとくっついていて有名だったから。
女子は友情が大事だとはわかっていたけれど、あいつがオケ部の発表会に白い花束を持って現れたとき、俺は『二人は相当親密なんだ』と勘違いした。言い訳になるが、その場にいたほとんどの人は勘違いしていただろう。さらに、西九条さんが結月に告白らしきことを言っていたのも聞いてしまった。(後になって、男子に言う練習だったと説明されたが)
結月は西九条さんをよく『私の咲良』と呼んでいたけれど、二人がそれでいいなら、別に構わないと思っていた。俺にとってそれでも結月は可愛い後輩だった。
去年、俺が女子のいざこざに巻き込まれたとき、あいつは意外にも冷静に助け船を出してくれた。いつも明るく部活で友達に囲まれて、先輩や後輩にも慕われている姿を見て、少しだけ残念に思っていた。あいつには西九条さんが一番なのかと。
自分のピンチのために期間限定彼女役を頼んだのは、他に頼める人がいなかったのもあるけれど、結月以外には考えられなかったから。なのに、どうしてこんなにこんがらがってしまったんだろう。西九条さんの彼氏が後輩の塚本だとわかった時に、きちんと自分の気持ちを言っておけばよかったのか。それとも結月のことを本当に好きになっていったのは、彼女役としてうちに来て、家族と打ち解けてくれたり学院で頑張る姿を見てから――いや、やっぱりお互いの会話が足らなさ過ぎた。
どうしたらいいんだろう。もうやり直すことは出来ないのか。
◇◇◇◇
兄さん、悪いけど盗み聞きさせてもらったよ。道理で二人は恋人同士に見えないはずだ。まさか彼女役をさせていたなんて。なにか行き違いがあったようだけど、このチャンスにつけ込ませてもらおう。兄さんもバカだなあ、あんなにかわいらしくて、生き生きして、素直に明るく笑うひとは滅多にいないのに。女を見る目があるのかないのか、わからないね。帰ったら早速花屋に白い花を注文して、桜宮先輩に告白しないと。こういうのは早い者勝ちだって知らないのか。
それから、聞かれたくない話をするなら、部屋だけじゃなくてキッチンの方まで気をつけた方がいいよ。僕の他にも雅も聞いていたから。
◇◇◇◇
私は結月姉さまがどっちの兄さんとつきあっても構わないわ。
雅のお姉さまになってくださるなら。
それにしても湊兄さんって本当にポンコツね、あきれてものが言えない。
あきれてものが言えないってフレーズ、久しぶりに使ったわ。
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