第28話――リゾート地でのバカンスは

「天王寺先輩、金持ちの別荘で優雅なバカンスって言ったじゃないですか!何です、ここは!」


 天王寺家の皆さんと、夏休みにセレブの別荘でご一緒するという話だったのに。

 私は先輩をご家族から引き離し、ささやき声で問い詰めた。


「どう見ても田舎の超山奥の庶民のキャンプ場じゃないですか!ケータイの電波も途切れがちだし。なんでこんなところに天王寺家が来てるんですか!」


「すまない、俺にもよくわからないんだ。」


「桜宮さん、いいところだろう。最近、世間ではアウトドアとかキャンプが流行っているそうじゃないか。一度来てみたかったんだよ。いつもの変わり映えしない別荘より、自然あふれるキャンプ場で不便や不自由を楽しもうと思ってね。」


 ダンディが得意げに言い放ち、美魔女と雅ちゃんは物珍しそうにコテージを眺め颯君は無になっている。

 私、普段から比較的お金に不自由して生活しているんですけど。

 バカンスくらいゴージャスに贅沢したかったな。


「男子チームはこのコテージ、女子チームはそっちのコテージだよ。」


 せめてグランピングがよかったけど、テントじゃないだけマシか…。

 でもこのコテージ、トイレは外だし、付属の毛布も肌触りがチクチクする。

 私はてっきり優雅な別荘ライフかと、気合を入れて髪を巻いてストライプのツーピースでおしゃれしてきたのに。

 とにかく長そで長ズボンと運動靴に着替えないと。

 サンダルはいてる場合じゃないわ。汚したくないし。


「桜宮先輩、荷物運びますよ。」


 颯君が荷物を持ってくれるのに、ビックリする。

 だって、いつも自分で持ち運んでいる剣道の防具より軽いんだもの。

 天王寺先輩も思いもつかなかったようで唖然としていた。


「ありがとう、颯君。」


 うちでは父さんは母さんに世話されっぱなしで、男兄弟もいないから、こんな風にしてもらうとちょっと照れる。


「今日の桜宮先輩はかわいらしいですね。髪型も。」


「えっそうかな。でも虫刺されや擦り傷防止で長そで長ズボンに着替えないと。颯君も肌を露出させない方がいいよ。」


「はい、男子チームも着替えます。」



 さて、着替えるといっても問題があります。空調完備の別荘だと思っていたので、長そで長ズボンは念のために持ってきた中等部の頃の学院ジャージのみ。

 着心地がいいので家でも愛用していた。高等部のジャージは破れたり汚れたりすると困るから、持ってきていないし。しょうがない。


「まあ、桜宮先輩、中等部の人みたい!一緒に写真撮っていいですか?」


 髪を三つ編みのおさげにまとめていると、スポーツブランドのウェアに着替えた雅ちゃんが飛びついてきた。

 招待してもらってるし、美少女からお願いされると断れなくてOKする。


「恥ずかしいから他の人に見せないでね。」


「えーっ、花蓮に自慢したかったのに。……わかりました、私だけの秘密ってのもいいですよね。それから、この旅行中だけでいいから…結月姉さまって呼んでもいいですか?私、姉が欲しかったんです。」


「いいけど、この旅行中だけにしてね。私、学院ではあまり目立ちたくないの。」


 私だって先輩がいて、そのために『颯君』と『雅ちゃん』って呼んでるから、

やめてとは言い難い。雅ちゃんは中等部とはいえ、豊中さんや高槻さんのように学院でごたごたするかもしれないのは勘弁して欲しい。


「えっ、そうなんですか?結月姉さまって結構噂が……いえ、わかりました。」


「噂って…」


「二人とも、着替えが済んだのなら炊事場に行くわよ。男子チームを待たせるとうるさいから。」


「行きましょう、結月姉さま。…ああ、花蓮に自慢したい~。」

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