第27話――塚本VS箕面

『始めっ!』


 審判の声に、対戦する二人の竹刀しないの先が触れそうになる。


「「やあ!」」


 箕面君も腹の底から声を出すタイプだわね。たまに頭のてっぺんから声が出てるんじゃないかって人もいるけど、個人の好き好きで別にどちらでもいい。

 私や天王寺先輩は腹の底からタイプで、凛姉と長瀬君は頭のてっぺんタイプ。

 塚っちゃんはいつもは自然体というか、穏やかな剣道スタイルで強そうには見えない。でも今日は手数が多い。団体戦の時より気合も入ってるじゃないの。


「籠手、面――!」


「胴――!」


 すれ違う二人がすぐに向き直る。すきが無い。


「結月、今のって、一本取れないの?」


「うーん、ほぼ同時だから。あのね咲良、ハッキリと思い切り踏み込んで、打ち込むところを明言し、鋭く竹刀を振り当てないと一本とは認められないのよ。」


 そうこうするうちに、塚っちゃんの面が決まる。


「キャーッ塚っちゃんの勝ちね!かっこよかった。私ずっとトイレ我慢してたの。行ってくるね。」


「あっ、咲良まだ……。」


 そう、剣道は柔道のように一本勝ちではない。

 五本勝負で先に三本取った方が勝ち。

 咲良がトイレに行って、混んでいたのを待ち、戻ってくるのに少し迷子になっているうちに塚っちゃんは惜しくも3-2で箕面君に負けていた……。


「えっ?負けたの?五本勝負?先に言ってよ、結月。」


「ゴメン、知ってるかと思って。」


 咲良、今まで私の剣道の試合、二回くらい見に来てくれたじゃないの、何見てたのよ……。



 塚っちゃんは今までの試合の中で一番がっかりしていた。

 剣道は団体戦がメインで、個人戦は言い過ぎかもしれないが、オプションみたいなものなのに。

 咲良は一本目しか見ていなかったことを隠すように、しょんぼりしている塚っちゃんを励ます。


「一本目の面、とってもかっこよかったわ。竹刀じゃなくて真剣での勝負なら、あそこで相手は頭を割られて続けて戦えなくなってたわ。だから塚っちゃんの勝ちみたいなものよ。ねぇ結月。」


「そうよ、咲良の言う通りよ。」


「西九条さんはともかく、剣道やってる結月がよく言うよな。」


 長瀬君の言葉に、天王寺先輩もうなずいていた。



「よう、お前の彼氏残念だったな。」


 試合が終わって解散した後、体育館を出たところで母さんが車で迎えに来てくれるのを待っていると、後ろから声を掛けてきたのは箕面君。

 じろりと彼を見て訂正しておく。


「塚本君のことなら、私の彼氏じゃなくて、あなたが初めに声を掛けてた私の友達の彼氏よ。」


「えっ宮の彼氏じゃなかったっけ?」


「西九条の彼氏よ!ちゃんと話聞いてた?」


「まあいいや。塚本もなかなかやるけど、それより桜宮も結構強烈な戦い方するよな。殺気に満ち溢れてるっていうか。」


「戦う時には本気で行かないと、相手に失礼でしょう?」


「そうだな。お前みたいなのってオレのタイプだわ。塚本が彼氏じゃないなら、オレがお前の彼氏になってやってもいいぜ。」


「軽いわね。咲良に声を掛けてたくせに。おあいにく様、間に合ってるわ。……でも今の彼氏と上手くいかなくなったら考えてあげてもいいわね。」


 今まで男子にこんなこと言われたことがなかったので、少しだけうれしいなって思ったのは事実。

 箕面君はちょっと目を見張って笑う。

 次の瞬間――箕面君は豊中さんや淡路さん、中津さん、桃谷さんの後輩女子たちに体当たりで吹っ飛ばされていた。


「桜宮先輩、あちらに凛先輩とお母様がお迎えにみえてました。さっ、行きましょう。淡路さん、中津さん、桃谷さん、ご協力ありがとう。天王寺先輩、こんなところで何してるんですか、桜宮先輩がピンチだったのに。助けに来ていいとこ見せないと。まったくもう。」


「豊中さん、今って私、ピンチだった?」


「よく知らない男子に口説かれていたじゃありませんか。気を付けていただかないと。あいつなら、まだ天王寺先輩の方がマシですよ。」


「俺ってマシなのか……。」


 豊本さんに拉致されるとき、先輩は小さくつぶやいていた。

 試合は活躍したのにあの言われよう、気の毒。

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