第22話――バレそうになる

「それで、オーガニック野菜畑とハーブ畑と芋畑に新しく取り組むことになったんです、結月先輩。あ、結月先輩ってお呼びしてもよろしいでしょう?」


「ちょっと、高槻さん!中等部からの部活の後輩でも桜宮先輩って呼んでるのに、なれなれしいわよっ!」


 今日はお昼のカフェテリアで、相談があるという高槻さんと、同じ学年で仲良くなっておいて欲しいと剣道部の後輩の豊中さんと、協力してくれる颯君と四人でお弁当を食べている。


「まあまあ豊中さん、先に私が高槻先輩と紛らわしくないように百合奈さんって呼んでしまったのよ。(本当は、なついてもらおうとしただけ)ごめんなさいね。これからは高槻さんって呼ぶから、桜宮先輩って呼んでちょうだい。心の中では百合奈さんって思っているわよ。」


「はい、分かりました。」


 得意そうに豊中さんを見る高槻さん。

 豊中さんが般若のような顔で高槻さんをにらみつけた。


「豊中さん、私、あなたのこと、心の中では豊ちゃんって呼んでるわよ。他の後輩もそう。学院は基本名字呼びでしょう。決まりを守らなくては。」


「わかりました。でも桜宮先輩は、剣道部の後輩のものですから。」


「剣道部のものってどなたが決めたんですか。学院の後輩全員の先輩でしょう?」


「なによっ!ついこの前まで桜宮先輩は西九条先輩のものだってみんな諦めていたのよっ!相手が西九条先輩なら仕方がないって、認めていたのに。西九条先輩が塚本先輩とつきあいだして、どれだけの女子が大喜びしたか知らないでしょ!」


 もう、豊中さんが爆発しちゃったじゃない。

 ちょっと待ってよ。なんで女子が大喜びするのよ。

 剣道部の塚っちゃんをとられてがっくりじゃないのかしら。

 そこへ静かにお弁当を食べていた颯君が、爆弾を放り込んできた。


「桜宮先輩は兄さんの彼女じゃないの?」


「なんですって!桜宮先輩、そうなんですか、いつからなんですかっっっ!」


 ちょっと、豊中さん、ご飯粒飛んだよ。

 彼女のことは中等部の時から知っているけど、いつも冷静でこんなに取り乱したところを初めて見る。豊中さんは見た目は小柄でかわいらしいのに、剣道は苛烈かれつで手数が多い攻めまくるタイプだった。


「豊中さん、部活の後輩なのに、何も知らないのねぇ。」


 高槻さんはせせら笑うように言う。


「ちょっと、二人ともやめなさい。天王寺先輩とは、世話焼きの先輩と、可愛がってもらっている後輩ってとこかな。好きとか言ってもらってないし、もう少し見守っててくれないかしら。ここにいる人だけの秘密にしてくださるとうれしいわ、特に豊中さん。」


 剣道部でこの話が広まったら大変だ。

 限定の期間が過ぎた後、面倒なことになる。


「……わかりました。まだ恋人同士ではないんですね。」


「残念ながらまだです。それより、畑を作る人手が足りないのでしょ。平日は部活があるけど、土日なら手伝えるわよ。」


「今度の土曜日に畑を耕そうって話になってます。桜宮先輩が手伝ってくださるなんて、百合奈嬉しいな。」


「私も手伝います。園芸部に恩を売っておいて損はないですから。」


「僕も手伝うよ。」


 こうして畑を耕す手伝いをすることは、すんなり決まった。



「結月、ここにいたのか。」


 カフェテリアから教室に帰ろうとしたところを天王寺先輩に呼び止められる。


「先輩、高槻さんとは無事和解出来ました。」


「そうか。さすが結月だ。それはそうと、今度の週末暇か?映画にで…」


「今週末は豊中さんや颯君と一緒に園芸部の畑耕しです。」


「じゃあ次の週まつ…」


「その次は土曜日は練習試合で、日曜日は母の誕生日で家族で出かけます。さらにテストが近くなるので授業料免除に向けて勉強しなくては。咲良とも出かけたいし。あっでも颯君とチェスをする約束をしてるので、その時に先輩のおうちに行って彼女のふりをしますから大丈夫ですよ。」


「……そう……。(俺との約束は一つも入ってないのに、なんで弟とは二つも約束を入れてるんだよ。)」

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