第21話――百合奈陥落作戦会議
「これが天王寺家のお弁当の中身ね。」
「咲良、そんなに見たら失礼でしょ。」
「一ついかがですか?」
「いいの?ありがとう、卵焼きもらうわね。あら、味は割と普通ね。」
颯君からいいアイディアを考えついたというラインをもらったので、カフェテリアでお弁当を食べながら一緒に作戦を練ることにした。いつもの長塚君と塚っちゃんと咲良の三人にも相談に乗ってもらうことにして五人でテーブルを囲む。
塚っちゃんと長瀬君は、どうして天王寺先輩の弟さんがいるのかという顔をしていた。颯君も私の他に三人も二年生がいて緊張しているみたい。
「知ってるとは思うけど、実は私、一昨日の予算員会で園芸部にやりすぎちゃって。天王寺先輩に、高槻妹を手なづけて穏便に治めろって言われたのよ。天王寺先輩の弟の
私は自分で作ったおかずのような顔をして、長塚君持参の鯵の南蛮漬けやニンジンと干しブドウのサラダを颯君に取り分けてあげる。
鯵の南蛮漬け、酢がきつくて苦手って人結構いるけど大丈夫かな。
「ありがとうございます。」
「長瀬君と塚っちゃんは、私が剣道部の代表で予算員会に出てやらかしたんだから協力してくれるわよね。」
「も、もちろんだよ。天王寺先輩の弟さんにも協力してもらってるんだし。」
「私だって結月の腹心の友なんだから協力するわよ。」
「ありがとう、咲良、大好きよ。で、颯君、いいアイデアってなに?」
おかずをもぐもぐしていた颯君は急に話を振られて、少しむせる。
それとも酢がきつかったのかな。
「あの、予算が増えないのはどこの部活も厳しいと思うんです。でも園芸部なら、生徒の家から種や球根を提供することができますよね。育て方のコツとかも。もちろん、うちも協力してもいいですし。」
「なるほど、いいね、それ。俺のうちにも母さんが大事にしてるハーブが何種類かあるよ。」
「長瀬君のお母さんのハーブなら間違いないわ。取りあえずこのメンバーで何種類か集めて、高槻さんに提案してみましょう。塚っちゃんも咲良も頼むわよ。」
五人で種と球根を大急ぎで集め、騒ぎにならないようこっそりと高槻さんに園芸部の部室での面会を申し込む。
それぞれの伝手を使ったらけっこうたくさん集まった。
颯君は美魔女が大切にしている観賞用の菊の苗を提供してくれた。
私のうちはマンションで園芸をしていなかったので、買ったばかりのかぼちゃについていた種を提供することにする。
拒否されたらどうしようかと思ったけど、さすがにそこまではされなかった。
「百合奈さんと二人で話したいのだけど、いいかしら。大丈夫よ、ちょっとこの前は言いすぎちゃって、仲直りしたいだけだから。」
にっこり微笑むと、園芸部の二、三年生は心配そうな顔をしながら席を外し、私たちを二人にしてくれた。
「この前はすみませんでした。」
心はこもっていなさそうだけど、とにかく高槻さんの方から謝罪される。
「私も少し言い過ぎたわ。でね、今日は仲直りのしるしにハーブや花の種や球根を差し上げようと思って。私、中等部の時に園芸部の白百合を頂いたことがあったけど、とっても素晴らしかったわ。そういうのも好きだけど……。百合奈さんはどんな花が好きなの?」
「私はどちらかというと、身近な草花の方が好きです。」
「まあ、私もよ!ミニトマトの花とかとっても可愛いし、オクラの花の黄色もいいわよね。ナスの薄紫の色って本当にきれいで。」
「は?」
「このカボチャの種、私からなの。無農薬って流行ってるからオーガニック野菜を栽培してみたら文化祭で売れるわよ。サツマイモもいいわよ。初等部の一年生に芋ほりをさせてあげれば園芸部の必要性が増すわ。敷地は広いでしょ?耕すの、私手伝うわ。」
高槻さんは驚いたような顔をしている。
まずい、花より野菜のこと言い過ぎたか。
もしかしたら少し貰えるかもって期待してた。
「桜宮先輩……。ごめんなさい、この前あんな生意気な態度をとった私に、こんなにいろいろと考えてくださるなんて……。今日もお説教かと思っていたのに、優しくしてくださって。私、なんてお詫びしていいか。」
「いいのよ、かわいい下級生じゃないの。もしお礼がしたいなら収穫した野菜を、いえ、なんでもないわ。野菜のことでなにか相談したいことがあったらいつでも言ってちょうだい。力になるわ。」
「ありがとうございます!!もらった種や球根、大切に育てます!」
話せばわかる――これで一件落着と思ったのに。
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