第20話――予算委員会再び

「以上を踏まえて、園芸部の今年の予算の増額を申請いたします。」


 発言したのは元女帝で生徒会長だった高槻さん――の妹で今年高等部に進級した高槻たかつき百合奈ゆりな。お姉さんによく似た美貌で同じポニーテールの髪型がさらにお姉さんを思い出させる。そして目力が強い。


 予算委員会の場は凍り付いている。

 各部の部長や会計が一堂に会しているが、あまりのことに全員があっけに取られていた。

 今年の予算委員会は去年やり込められた園芸部が物議を醸しそうだという前評判があり、そのため剣道部は会計の塚っちゃんではなく天王寺先輩と私、それに一年生の豊中さんで参戦している。

 私は発言するためにゆっくりと手を上げた。


 そう来たのね、園芸部。そんなやり方が通じるとでも思っているのかしら。


「剣道部、どうぞ。」


「はい。まず園芸部の発言内容の前に、どうして一年生の高槻さんが園芸部の代表として発言なさったのか、疑問に思います。まだ高等部の部活に入部して二か月足らず、部活にも慣れていないのではないでしょうか。園芸部の二、三年部員の先輩方を差し置いて発言なさるなんて、どなたかの威光を笠に着ているとしか思えません。」


 元女帝で生徒会長だった高槻姉はたしかに生徒会長としての手腕は素晴らしく、多少の園芸部予算の増額は黙認された。

 だけど姉妹だからってこのやり方は許されない。


「次に予算についてですが、去年は囲碁将棋部や演劇部が目覚ましい活躍をして賞を取っています。他にも、茶道部と華道部の学園祭での盛況ぶり、美術部の作品オークションも話題でした。園芸部よりもそちらの…。」


「結月、他の部活のことはその部活が言うから出過ぎるな。」


 天王寺先輩の待ったがかかる。


「……すみません。とにかく、園芸部の予算増額には賛成できません。」


 そこから議論が始まり園芸部の増額案は却下され、結局どの部活も多少の増減はあるものの、ほぼ去年と同じということで落ち着く。

 委員会の後で高槻さんの引きつった恐ろしい顔に少し言い過ぎたかと反省したが

囲碁将棋部や演劇部に「ありがとうね。」とお礼を言われたり、運動部に「僕達のことも知っといてよ。結構頑張ってるのに。」と言葉をかけてもらったり、自分では正しかったと思っていた。



「高槻さんをちょっと追い詰めすぎたな。」


「天王寺先輩、それどういうことですか。私間違ったこと言ってましたか?」


「結月は正しいよ。だけどあそこまで追い詰めなくても。」


「じゃあどう言えばよかったんですか。だったら先輩が言えばよかったのに。」


「そうだな。ただ、高槻さんが結月や剣道部の敵にならないか心配なんだよ。結月なら上手く手なづけて優しく教えてやれるんじゃないか。」


「……少し言い過ぎたとは反省してます。わかりました。高槻さんとも和解できるように努力します。」


「そのほうがいいな。凜先輩もだけど、結月もお金のことになるとちょっと熱くなるな。」


 しょうがないじゃない、お金大事なんだもん。



 予算委員会でのことを考えていたら気分が暗くなっていたけど、買い物して帰らないと冷蔵庫の中が空っぽだったはず。

 スーパーの前でカゴを手に気合を入れたとき、名前を呼ばれて振り返る。

 天王寺先輩がメガネをかけた顔の弟、颯君だ。


「颯君!どうしたのこんなとこで。」


「ちょっと部活の道具で欲しいものがあって。店がすぐそこなんです。桜宮先輩は、なんだか少し元気ありませんね。」


「うん、ちょっと予算員会でやりすぎちゃって。」


 どうせ明日には噂になってるだろうと、予算委員会の大体のところを説明する。


「ああ、高槻さんか。友達はいるみたいだけど気が強くてクラスでもちょっと浮いてるかな。お高くとまってるって言うヤツもいるし。桜宮先輩は悪くないですよ。」


「でも、天王寺先輩には手なづけて優しく諭せみたいに言われちゃって。どうやって手なづけたらいいのか。姉はいるけど、妹はいないのよね。」


 自然とため息が出た。


「僕も考えてみます、妹がいますし。あの、いい案があったらお知らせするので連絡先教えてもらっていいですか。」


「いいわよ。それから颯君、少しだけ買い物付き合って。タイムサービスのおひとり様一パック限りのトイレットペーパー、二つ欲しいから。」


 こうして私は強力な助っ人と、トイレットペーパーを手に入れた。

 ああ、トイレットペーパー、二つ買えてうれしい……。

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