第17話――ホワイトデーは白い
「西九条さん、これ、チョコのお返しです。受け取ってください。」
「えっいいのに、気にしなくても。私たち仲良しじゃないの。」
塚っちゃんは勇気を振り絞って渡してるけど、咲良には通じてないよ。
物陰から見てた私は、らちがあきそうにないので助っ人をすることにした。
「塚っちゃん、咲良へのお返し、私にくれたやつより大きさが二回りくらい大きいね。」
「桜宮さん、まだいたの?!」
「咲良、塚っちゃんのお返しは義理でも友達のでもないと思うよ。私が言うのもなんだけど、塚っちゃんは頭いいし、剣道もそこそこ強いし、何より性格が優しくていい人だからおススメよ。好意的に考えて欲しいわ。じゃあお邪魔さま。」
私は二人を残して学院を出た。
なんとなくだけど、塚っちゃんは咲良のことが好きかなって思っていたから、驚きはない。
咲良は自分で選ぶと何だか心配な人を選びそうだから、塚っちゃんに選んでもらって正解じゃないかな。
おっと、上手くいきそうな友達の世話を焼いている場合ではなかった。
夕方のタイムセールにサラダ油を買わなくては。
凛姉は長瀬君と会うって言ってたから当てにできない。
「ただいまー。凛姉もう帰ってたの?」
「結月、お帰り。サラダ油買えたよね。ご苦労様。長瀬君に紅茶のシフォンケーキワンホール貰ったから食べよう。」
「もう、凛姉もスーパーに来てよ。底値でおひとり様一本だったのよ。」
そこへ母まで帰宅する。定時で帰ってくるなんて珍しい。
「おかえりなさい、母さんったら珍しく早く帰ってきたわね。なんかいいことあったの?」
凛姉が聞くのも無理はないくらい母さんは浮かれていた。
「ええ、いい話があるのよ!実は…ウフフ、家計が大幅に改善いたしました!住宅ローンも結構繰り上げ返済したし、貯蓄額も……凜の大学入学費用も大丈夫だし、春休みには久しぶりに家族旅行はどうかなって。ああ、お父さんが欲しがってたマッサージチェア、注文してきちゃったわ。」
「ええっ!ちょっともっと早く言ってよ。私、旅行もいいけどお小遣い値上げして欲しい!咲良とスイーツを食べ歩きたい!」
「そうよ、臨時でいいからとにかく現金が欲しいわ。」
どれだけお小遣いのやりくりに苦労したことか……。それももう終わるんだ。
「いったいどれくらい贅沢してもいいのかな。カレーを作る時、チキンカレーじゃなくてポークカレーにしてもいい?」
「ビーフでもいいんじゃないの?高い肉買っちゃいなさいよ。」
女三人できゃあきゃあしていると父さんが青い顔をして帰宅した。
「父さんおかえりなさ……。どうしたの、手術失敗でもした?」
父さんが仕事でやらかして収入が途絶えたら、えらいことになってしまう。
もう節約・貧乏気質で生活しなければならないのはこりごりなのに。
さっきまでの浮かれ気分は一瞬で消え去り、父さんを取り囲んで心配する。
「いや、それよりはマシだが、実は桜宮のばあちゃんが体調を崩して施設に入ることになったんだ。じいちゃんも、ばあちゃんがいないと何もできない人だから、同じ施設に入るって。それで姉さんたちが、アンタが一番学費払ってもらって収入もあるからって、ばあちゃんたちの貯金が尽きたら費用を七割負担しろって。姉さん三人があと一割ずつっ…」
「マッサージチェア、キャンセルしなきゃ!もうカードで払っちゃってるけど、できるかしらっ!」
「ちょっと、いつ貯金が尽きて、何年負担し続ければいいの?」
「それより結月、たしか学院の掲示板に奨学金について張り出してあったわ!すぐに書類を取り寄せて、申請するのよ!」
夜に咲良からの電話。
「それでね、塚っちゃんと取りあえずつきあってみることにしたんだけど、ちょっと結月、聞いてる?」
「聞いてるよ、咲良。よかったね。」
「なんなのよ、その暗い口調は。盛り上がるかと思ったのに、なんかあったの?」
「今、頭の中、真っ白なの。明日には復活して説明するから、ごめん……。」
こうして奨学金の申請には間に合ったが、怒涛の高等部二年が幕を上げることとなるなんて……。
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