第14話 ――次の恋

「凜さんがいつでも新鮮な気持ちでいたいから、学院ではベタベタしたくないって言うんだ。そのかわり…」


「長瀬君、お弁当作って凛姉とピクニックだって。見かけによらないねぇ。」


 私は長瀬君の惚気を一言で封じ込めると、長瀬母お手製のバナナマフィンにかぶりついた。これ美味しい。レシピ教えてもらおう。

 横では長瀬君だけでなく塚っちゃんまで真っ赤になっている。


「結月、そんなことより私の話を聞いてよ。ちょっと気になる人がいてね。」


「なに、男子がいても大丈夫な話なの?」


「長瀬君と塚っちゃんならいいわよ。空気みたいなものだから。あっ大切な友人って意味よ。それでね、話って言うのは柔道部に森のくまさんみたいな人がいて」


「ええっ!柔道部のくま○ン?ちょっと、何でまたあんな…。また咲良から告白するの?」


「ううん、今回は向こうから手紙貰ってる。で、付き合ってみようかなって。人は見かけによらないって言うじゃない。」


「優しそうな人だけど、もっと他の人には手紙貰ってないの?」


「うーん、字が汚い人や何言ってるかわからない人はダメなの。森のくまさんは字がとってもきれいだったし、直接言ってくる人はいないし。」


「桜宮さんがいつもくっついてるから直接言う機会がほとんど無いし、誤解してる人もいると思うよ。」


「誤解ってなによ、塚っちゃん。私のせいって言いたいの?」


「本人の気持ちが一番だろ、見守ってやれば。」


「フン、長瀬君は自分が上手くいってるからって余裕ね。結局もう咲良の気持ちは決まってるようだから、私は尊重するわ。」



 咲良の次の恋はお付き合いのお試し期間中に終了した。


「だって全然話が合わない、というか向こうがほとんど何も話さないのよ。手紙だって書道部の道風(影の名前 小野おのの道風とうふう 書道の達人)が代筆してたのよっっ!」


「いいところは無かったの?」


「うーん、いいところはお姫様抱っこしてくれたところかな。柔道部だから軽々って感じだったけど、普通生活しててお姫様抱っこするシチュエーションってそんなにないでしょ。やっぱり私、共通の話題のある人がいいわ。」


「それがわかっただけでもよかったわ。次からは付き合う前に少し観察して、というかお互いよく話をした方がいいよ。私、咲良をあんまり安売りして欲しくないわ。」


 こうして咲良の恋は終了した。ただ、字が上手い人が第一条件という話が広まって、書道部の道風と定家、空海によって代筆されたラブレターを多数もらうあまり、咲良は三人の筆跡を正確に見分けることができるようになってしまった…。

 そしてこの恋愛(?)によって咲良はさらにガラが悪くなる。どうしてくれるの。


「自分で書かないとだめって噂も流したいわ……。」


「ラブレター貰えるだけでうらやましいよ、咲良。」


「好きな人からじゃないと気が重いよ。」


「そうなんだ、ごめんね。」

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