第11話 ――長瀬悠人のお弁当
「それで凛先ぱ、いや凛さんがさ、みんなの前ではキリっとしてるけど二人きりだと、とっても可愛いんだ。」
「「「…………。」」」
「僕が荷物持ってあげると、ちょっとはにかんで『ありがとう』って。それで……。」
私と咲良と剣道部仲間の塚本君は無の表情でお弁当を食べ続けた。
本当は姉のことを
だけど、長瀬君のお母様は料理研究家でお弁当のおかずが絶品なのだ。
一応気を使っているのか、明らかに四人前以上のおかずと取り皿が用意されていて、今も私は鴨肉がオレンジジュースで味付けしてある食べたことのないおかずをいただいてぱくついていた。
「長瀬君、そっちのタッパーには何が入ってるの?」
「シャインマスカットのゼリーだけどそんなのより聞いてよ、今度の休みに…。」
「そんなのじゃないわよ!それくれないならもう話は聞かないわよ。」
「私振られたばっかりなのに、どうして他人の惚気話を聞かなくちゃならないのかしら。私だって荷物持ってもらったら、はにかんでありがとうくらい言うわよ!」
咲良は音楽に対する見解の違いという、わかったようなわらないような理由でクラリネット王子に振られたことになっている。
咲良はこの恋愛で少しガラが悪くなったようで腹心の友としては悲しい。
「そうだよ、西九条さんが可哀想だろ。大体さ、
塚本君は長瀬君の幼馴染で剣道部の万年次鋒。
地味な存在だけど、たまに捨て大(相手の大将がこちらのエースでは勝てそうもない時の生贄に一番弱い人を大将にすること。捨て駒。)の時にさらりと勝ったりしてなかなか侮れない。
性格はとってもいい人だ。
私を含めてみんなに塚っちゃんと呼ばれている。
「そういうなよ塚っちゃん。実は最近油断してると、廊下の曲がり角とかいろんなところで上級生のお姉さまにぶつかってちょっかいをかけられるんだ。凜さんがそういう人を締め上げて落ち着くまで一年生エリアでは結月が見張ることになっててさ。凜さんの妹だから効果は絶大だよ。」
「ニヤニヤしてないで自分で追い払いなさいよ。淀屋橋先輩の二の舞にならないといいわね。淀屋橋先輩、結局今誰とも付き合ってないって話でしょ。それから長瀬君、結月のこと名前で呼んでるの?」
「桜宮さんだと凜さんもそうだし、妹みたいなものだから。許可は得てるよ。」
咲良は面白くないといった顔をして私に言う。
「結月、食べ過ぎじゃないの?」
「大丈夫よ、部活でカロリーは消費できるから。余ったのは五時間目の放課に食べるわ。お弁当箱は洗って部活の時に返すね。シャインマスカットのゼリー美味しいよ。咲良も食べなよ、はいこれ。」
「ありがと、結月。」
「あの、僕と塚っちゃんの分は…。」
こんなのは全く平和な一日でした。
強烈なことが数週間後に起こりました――。
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