第8話 中等部三年生――好きになった人
「私、あなたが好きです。お付き合いしてください。」
中等部と高等部の境の人気のない校舎裏。そして放課後。
目の前の咲良は初等部六年生の時に切った髪をあれからずっと伸ばしていて、
また元のロングヘアに戻っていた。
顔が真っ赤で、告白が恥ずかしいのか少し震えているところが、かばってあげないとって思わせる。
「いい!バッチリだよ、咲良。その告白を断れる男子はいないね。私、今うっかり『はい、よろしくお願いします』って言っちゃうとこだったわ。」
「そうかな。ほんとにこれでいいのかしら。」
「変に誤解されないように、シンプルに言った方がいいって。凛姉がこの前、何が言いたかったのか結局わからなくて後から告白だったことが判明したって話をしてくれたよ。」
咲良が好きな人に告白したいと相談してきたのは中等部三年の秋――。
初め私は驚きを通り越してぶっ魂消た。
咲良は告白され、消え入るように『はい。』って言う人だと思っていた。
まさかこっちから告っていくとは。
私の腹心の友、咲良に告らせるやつはなんとオケ部の一つ後輩のクラリネット王子らしい。
「練習はこれぐらいにして後は実行あるのみだよ。応援してるし、成功はまちがいなしだって。もし断られたら私がそいつを闇討ちしてやっつけてやるから。」
「闇討ちはやめてよ。でも頑張るわね。」
その時、視界の隅に見たことのある影が……。
「どうかした?結月。」
「天王寺先輩がいたような……気のせいかもしれないし、まあ、多分声は聞かれない距離だからいいか。関係ないか。」
咲良の告白は当然上手くいった。
とってもうれしそうに報告してくれた咲良を、私はぎゅっと抱きしめた。
めでたしめでたし。
ほぼ同時期に、凛姉にも彼氏ができた。
お相手は同学年の園芸部員、淀屋橋先輩。
何度も凛姉に白い花束を渡したのに気づいてもらえず、(この前はごめん、とか温室で咲いたから、とかはっきり言わなくてわからなかったらしい。)最終的に抱きしめにいって投げ飛ばされたらしい。
最後に淀屋橋先輩が告白して諦めようとしたところにまさかのOKが出たのだ。
「へー、凛姉ってこういう顔が好みなんだ……。」
ケータイの写真の淀屋橋先輩は、お世辞にもイケメンとは言えず、卵に目鼻といった感じ。影の名前もついてないし、漢字二文字で表すとしたら『平凡』な人みたいなのに、どこがいいんだろう。
「私、男は顔でも金でも権力でもないのよ!お金は自分で稼げばいいの。私が求めるのはただ一つ、いついかなる時も絶対に私の味方でいてくれるってことよ。後は申し込んでくれた順ね。」
諦めてないで申し込んでくれたらよかったのに。
イケメンで金持ちで頭のいい男子が……。無理か。
凛姉と淀屋橋先輩のカップルは私だけでなく、学院中に驚愕され噂になったが、本人たちは結構上手くいっているようだった。
私は静かに中等部の女子剣道部長となり、自分の責務を果たしていく。
試合では凛姉が激しい攻めの剣道に対し、私は静かに機会を伺い一撃必殺で勝つパターンが多かった。
剣道は面と胴と
竹刀を正眼(自分の竹刀の先が相手の喉元の延長線上)に構えて集中する。
少しでも隙が出来たら攻められるが、あえて誘う時もある。
時代劇では刀を大きく振りかぶって構える上段の構えや、刀の切っ先を下に向ける下段の構えもあるが、高校生くらいまでは正眼に構えるのがほとんど。
「桜宮さん、強くなったね。」
「長塚君もね。入学した時は私と同じくらいの身長だったのに、背が高くなって腕も伸びたから有利じゃない。ずるいわ。」
こうして中等部三年の日々は過ぎていった。
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