第7話 ――白い花束②
「だから、白一色の花束が問題だったのよ!」
演奏会の次の日の日曜に、私は咲良に学園近くのファミレスに呼び出された。
咲良はファミレスに慣れていなくて戸惑っていたが、私のお財布事情を考慮してくれたらしい。
会うなり咲良はいつもの上品さをかなぐり捨ててまくし立ててきた。
「えっ、不吉なの?それとも呪いとか。」
なんだろう、咲良のこの慌て方。
高等部の温室から強奪した無料の白百合ってバレたのかしら。
やっぱり買えばよかった。
「違うわよ!知らないの?この学園で白一色の花束を贈るのは、私にとってあなたが一番大切な人ですって意味よ!受け取ったら、私もそうですってことで。それを公衆の面前で、しかも受付に渡してたのは結月のお姉さんだっていうじゃないの。オケ部で私は高等部のお姉さまと出来てるっていうか、控えめに言っても後ろ盾についてるって話になって、昨日は大騒ぎだったのよっ!」
!って、語尾がキツイよ、咲良。
「ごめんね、私も凛姉もそんなこと知らなくて。どうしたらいいかな。咲良が良かったら、責任取って凛姉に後ろ盾になってもらってもいいけど。」
「困るわ!私、オケ部に好きな人っ…となんでもない。とにかく否定してまわるけど、気を悪くしないでって言いたかったの。」
帰宅後に白い花束のいきさつを凛姉に語ると、ああ、と腑に落ちた顔をする。
「淀屋橋君がごちゃごちゃ言ってたのはこれか。誰に送るのかとか本当にいいのかとか……、もっとはっきり言ってくれないとわからないよね。明日にでも私が西九条さんに謝っとくわ。」
次の日の放課後、早速凛姉は中等部のオケ部の練習室に現れた。
――白い花束を吹っ飛ばす人物と共に。
「ちょっと、あの高等部のお姉さま、泉佐野先輩じゃない?」
「やだ、本当。高等部オケ部の部長、マドンナがどうして中等部に!」
「マドンナと一緒のお姉さまって、鬼姫の桜宮先輩じゃない?」
「えっ、西九条さんに白い花束を贈ったっていう……。」
ざわめきの元の中、泉佐野先輩はぐるりとオケ部のメンバーを見てから優雅に
微笑む。
泉佐野先輩はマドンナの影の名前を持つが、優しそうで部活には妥協を許さない厳しい態度の人らしい。
「みなさん土曜日の演奏会はとても素晴らしかったわ。特にフルートの西九条さん。」
皆の注目が咲良に集まる中、凛姉は一歩進み出る。
「西九条さん、ごめんなさいね。白い花束の深い意味を知らなくてあなたを驚かせてしまって。ちょうど高等部の温室に咲いていたのをたくさん頂いたものだから。ただの白百合の花束のつもりで何の意味もないの。皆さんも誤解しないでいただきたいわ。」
「あの白百合は知っている人もいるだろうけれど、高等部の園芸部長で生徒会長をなさっている高槻さんの丹精して咲かせたものよ。変な憶測のもとになっているって知られたら女帝にどう思われることか……。皆さん、今回の花束のことは桜宮さんのうっかりということでお終いにしてほしいわ。わかってくださるわよね。」
マドンナ泉佐野先輩と凛姉のとりなしで、白い花束のことはオケ部ではすぐさま忘れ去られた。
それよりも高等部一年の凛姉が三年のマドンナと一緒に釈明に来たことと、女帝である生徒会長の大切な白百合を貰った(実際は淀屋橋君から強奪したんだけど)
こと、凛姉の陰の名前、鬼姫の噂でオケ部は沸き返った。
「私のことはすぐさま話題にならなくなって助かったけど、マドンナと結月のお姉さまってどういう関係?」
咲良は不思議そうに言う。
「芝生でお弁当食べてるマドンナのおかずに見入ってたら、『どうぞ』って言われていただいたらとっても美味しかったんだって。それからちょくちょく一緒にお弁当しておかずを貰ってるらしいよ。この学院そういう図々しい人いないから、珍しがられてるんじゃない?何にしてもよかったわ。咲良の誤解が解けて。」
「本当よ。もう、頼みたいことはちゃんと言うから無理しないでよ。」
「ごめんね。」
これですべて解決したと思っていたけど、一人誤解を解いていない人がいたのを
私はすっかり忘れていた――天王寺先輩に。
そして忘れたまま、中等部二年は何事もなく過ぎていった。
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