第6話 中等部二年生――白い花束①

「結月、今年もオーケストラ部の定期演奏会に来てくれる?」


「もちろんよ。咲良のフルート、楽しみにしてる。」


 中等部の定期演奏会はオケ部の一番華やかな発表の場。

 去年は何も知らずに制服を着て行けばいいって言われ、手ぶらで気軽に行ったら皆さん着飾って花束持参だったのでたいそう肩身が狭かった。


「今年は花束持って行くね。お誕生日のプレゼントと兼ねさせてもらうけど。」


「いいのに、そんなの。結月が来てくれるだけで。」


「大丈夫、腹心の友じゃないの。このためにお小遣い貯めておいたから。服は制服で行くと思うけど。」


 ドレスコードがわからないときはお葬式でも出席できる制服が最強装備だろう。

 私が持っている服の中で一番高価だし。



「凛姉、オケ部の演奏会に行くんだけど、咲良への花束どこで買おうかな。

 スーパーの花売り場じゃダメでしょ。」


「予算はいくらよ。花束って結構高いよ。」


「うーん、三千円くらい?」


「三千円だと厳しいわよ。ちょっと待って……。高等部の園芸部に友達がいるの。温室に何か咲いてないか明日見てくるよ。いつまでにいるの?」


「土曜日。お願いね。」



 金曜日の夜に帰宅した凛姉はつぼみと少し咲きかけている白百合の大層豪華な花束を抱えて帰宅した。


「わぁ、綺麗、どうしたのこれ。」


「園芸部の淀屋橋君から強奪してきたの。なんかごちゃごちゃ言ってたけど、最終的にはラッピングまでしてくれたから。白百合しかなくて悪いけど。」


「そんなことないって。これなら咲良も喜ぶよ。明日が楽しみ!」


「私も行こうかしら。部活も休みだし、たまには優雅にクラッシックを聴くのも悪くないわ。入場無料よね。」



 演奏会当日、中等部の制服の私は白百合の花束を抱え、高等部の制服の凛姉と一緒に会場に着いた。

 なぜだかみんなに見られている気がするが、自意識過剰かな。


「結月、ちょっと待ってて、トイレ行ってくるから。」


 ロビーで凛姉を待っていると、天王寺先輩がかっこいいスーツ姿で現れた。

 中等部なのにスーツ持ってるんだ。

 天王寺先輩は私を見て驚いている。思いっきり『えっ!』って顔してるよ。

 剣道少女がクラッシックを聴くのかって思ってるのかな。

 お互い様じゃない。


「先輩、こんにちは。私、友達の西九条さんの演奏を聴きに来たんです。」


 ちゃんと腹心の友に誘われてるんですからね。ふん。


「あ、ああそうか……。」


 天王寺先輩は何だか目が泳いでいるようだったが、そそくさと去っていった。

 何なのかしら。


「お待たせ、トイレ混んでて。」


「私も行っとこうかな。あっ凛姉、花束を御花受付に渡しておいてよ。」

 

 花束は演奏前に渡す相手と送り主を告げて受付に渡しておくことになっている。


「いいわよ。西九条咲良さんね。」


 去年は知らない曲が多くて少し苦痛だったのに、今年のオケ部の演奏は私でも知っている曲が多くて助かる。

 咲良のフルートを吹く姿は美しくて、「咲良の腹心の友は私なのよ!」と、大声で自慢したいのを我慢して演奏会を楽しんだ。

 幸せってこういうことなんだなって思ったわよ。


 次の日に咲良に呼び出しを食らうまでは――。

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