第2話 貧乏&節約気質

 私と二つ年上の姉、凛の両親は庶民の出で、自分たちの努力で高学歴と高収入を手にした。そこは尊敬している。

 だが母さんは3K(高学歴、高収入、高身長の男を少し昔そう呼んだ)の夫を手に入れ姉と私が生まれると、次は自分が憧れていたK学院初等部に娘たちを通わせるという自分供養にのめりこんだ。

 あの時の母さんは本当の鬼より恐ろしかった。でも子供に進路の選択権はない。

 凛姉りんねえの背中を見ながらお受験に励み、なんとか二人とも入学することができたときは姉妹で抱き合って安堵したものだ。

 娘二人が初等部の制服を着た姿を見た母さんは、感極まって泣いていたっけ。

 ほぼ同時に自宅マンションと国産高級車を購入した母さんは、自分の煩悩を成仏させることと引き換えに家計を火の車にした。

 父さんは心臓外科医としてB大附属大学病院に勤めていたが、開業医ではなく勤務医だった。

 父さんの給料だけでは娘二人の学費と住宅ローンで、家計はギリギリの大ピンチに陥った。

 もともと努力家で能力のあった母さんは証券会社に再就職してバリバリ働きだしたがこの頃のトラウマか、家族全員に貧乏&節約気質が染みついてしまった。


 とりあえず家計は救われたが両親の老後の資金もいるし、大学までこのままエスカレーターで行くならまだまだ油断できない。

 だから奨学金が欲しいのだ。


 さらにK学院初等部の優雅な学院生活とは裏腹に、私と凛姉には染みついた貧乏 気質と共に厳しい現実が二つ立ちはだかった。


 一つは家事の担い手がいなくなったこと。

 母さんは毎日夜七時過ぎにしか帰ってこない。

 父さんは変則的な勤務でしかも家では疲れていて、魚河岸のマグロのようにごろりとしていて何の役にも立たない。

 初めは炊飯器でご飯を炊いておく、という簡単な家事から洗濯物をたたむ、お風呂を掃除しておく、おかずの材料を切っておくなど母さんは簡単なメモで指示し、小学四年生の凛姉と小学二年生の私に次々と家事を任せていった。


「凛の作ったハンバーグは母さんのよりおいしいな。」


「本当ね。結月もお風呂ピカピカで助かるわよ。」


「うちの娘たちは勉強が出来るから家事くらいはお手のものだな。」


 口だけは上手い両親に乗せられ凛姉が小学六年生、私が小学四年生になった時はほぼすべての家事を二人でこなすようになっていた。

 両親が稼ぎ、子供たちが家事をする――。

 まさに家族総出で生活していたと言っていい。

 自分で自分を褒めたい。


 もう一つは華やかな学院の雰囲気に、私が上手くなじめなかったことだ。

 凛姉は上手いこと紛れ込んで楽しくやっているようだったが、私はいつも自分に自信がなかった。

 制服はいいとして、下着がブランド物でないのは私くらいのものだった。

 体操服に着替えるときはこそこそと素早く着替えた。

 髪型も複雑に編みこんでいる女子の中で私だけ美容院代節約で長い三つ編みなのも気後れした。

 今なら大したことじゃないってわかるようなことでも、小学生女子にとって周りと一緒じゃないっていうのはとてもストレスがあった。

 家庭教師も頼めなくて姉と二人、夕食後はきっちり勉強した。

 私はクラスで目立たないようにひっそりと息をひそめて生きていた。


 ところがどうした巡り会わせか、私は腹心の友になる西九条咲良と出会う――。

 同学年の中でもトップクラスのお嬢様の咲良と、庶民出身の私。

 まったく接点のない二人がなぜ腹心の友になったのか――。

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