期間限定彼女

清泉 四季

第1話 なぜそうなったのか、そしてこれからどうなるのか

「半年間ほど期間限定で、俺の彼女になってくれないか。」



 まだ肌寒い高等部二年生の四月の始業式後、私、桜宮さくらみや結月ゆづきは剣道部の三年生、天王寺てんのうじみなと先輩にK学院高等部の図書室に呼び出され、とんでもなくふざけた申し出をされた。

 期間限定?スイーツじゃあるまいし。


「……え、あのそれってどういう意味、というかどうして私が。そしてお互い何のメリットがあるんでしょうか?」


 私は怒りだすより疑問で頭がいっぱいになる。

 何言ってんの天王寺先輩。

 普通そんなことをOKする人、いる?


「説明しよう。意味はしばらくの間俺の両親に、彼女が結月だということにして欲しい。去年女子のことで俺が面倒に巻き込まれたのは知っているよな。」


 そういえば去年、二年生の(現三年生)女王とクイーンが、天王寺先輩を巡って激しいバトルを繰り広げていたっけ。

 私の通うK学院は良家の子息が多く通っていて、高等部には女王、クイーン、キング、殿、などその人に合った影の名前を持つ人が多数いる。

 ちなみに天王寺先輩は若殿だったけど、三年生の殿が卒業したからおいおい殿になるだろう。

 私の二つ年上の姉、りんは鬼姫って影の名前を中等部の頃からずっと付けられていた。


「それが両親の耳に入って、そんなことに巻き込まれるのは特定の相手がいないからだと言われたんだ。最近親父がやたらと会うくらいでいいからって、きな臭い話を持ち込んできてピンチなんだ。それでだ、実はもう彼女がいるって言ってある。結月なら中等部の時からの部活の後輩で人となりはわかっているし、もし学院の誰かにばれても凛先輩がいるから嫌がらせをしてくるやつはいないだろ。顔もまあまあ見れたもんだし、なによりお前、彼氏はいらないだろう?」


「なんで私に彼氏はいらないって決めてるんですか、失礼なんですけど!」


「お前たち上手く隠してるようだけど、結月と西九条咲良は百合だろ。」


「!!何ですか、そのデマは!咲良と私は腹心の友なだけです!咲良にはれっきとした彼氏がいるんですよ、失礼な!」


「えっ違うのか、俺はてっきり…。まあいい、とにかく一度だけでいいから自宅に来て両親に会ってくれないか。頼む、俺を面倒なことから救って欲しい。そうしてくれれば結月と凛先輩が学院に提出している返済不要の奨学金を、必ず貰えるように理事のじいちゃんに頼んでやる。」


「何で奨学金のことまで知ってるんですか!くぅ……わかりました。一度ご自宅に伺えばいいんですね。……その役、お引き受けます。奨学金は絶対ですよ!」


「まかせとけ。詳しい打ち合わせは今晩にでも電話するから。もう部活に行く時間だ。言っておくが、学院ではくれぐれも出過ぎたマネはしないでくれ。」


 ――そんなことしたくもないわ!


 なぜ私たち姉妹に奨学金が必要なのか、そして今日までの大雑把なK学院での生活を本編に入る前に少しお付き合いください――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る