第7話夕映えに沈む

気付くと車両の真ん中で寝転がっていた。


一体いつになれば夜が来るのだろうか。


夕焼けの茜色が血の色みたいに見える。


太陽は水平線に半分顔を出したまま。


「わけもなく泣きたくなる時があるの」


一緒にいても時々淋しそうな横顔をしてたね。


「(感傷に浸りたいだけなんだろう)」


「次の停車駅は千と百の園、千と百の園」


古びた駅に電車は停車する。


女子中学生が1人入ってくる。多分中学生の頃の君だね。


学生鞄から文庫本を取り出して、読み始める。


「昔は文学少女だったわよ。あくまで昔はね」


「(思い出の置き場には困るまい)」


昔の君に今の哀れな僕はどう映ってるんだろうか。


「(置き場はあるが分別に困るな)」


扉が閉まり、電車はまたガタンゴトンと動き出す。


昔の君はどんどん透けて、夕焼けの赤の中に消えていく。


「鳥のようにしなやかに翼を広げて飛びたいわ」


2019(R1)9/15(日)

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