第5話思い出ヶ丘駅

腕時計は壊れて動いていない。


空っぽの車両の中で眠気が取れない。


「次の停車駅は思い出ヶ丘、思い出ヶ丘」


3人組の家族が乗車するイメージが浮かぶ。


「(ひとりぼっちのお前)」


小学生の頃の自分だ。父も母も透けて見える。


そうか昔この電車に乗った記憶がある。


辺り一面に緑が広がり、庭の縁側が見える。


「(どの時代に逃げるんだい?)」


縁側は座席で後ろの景色は変わっていく。


奥の車両のピアノは映画のラストの如く盛り上がる。


母さんは優しすぎるんだ。もっと突き放していいよ。


一番幸せだった時代は宝だけど、ずっとは続かなかった。


気付くと向かいの席の3人組の家族は消えていた。


「あなたは家族を大切にするのね」


思い出が掠れて、また車両は空っぽ。


2019(R1)9/12(木)

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