第4話追憶のピアノ

まばゆい茜色は確認できたが、気分はうつろ


「私は好きだな、こういう空気感」


茶色のコートを着た紳士がいない。前の車両に移ったようだ。


「(一寸先は楽園だと思ってるのか)」


電車はトンネルに入る。窓が黒く塗りつぶされる。


「あなたが一緒にいてくれると思ってるから」


思い出すことが悲しみの上塗りになる。


「(泣きの弾き語り気取りか)」


冬は好きな季節だった。だった?過去形なのか。


奥の車両からピアノの伴奏が聴こえてくる。


優しい旋律がこだまする。


「あなたのささやき声が好きなの」


太陽はまだ沈みそうにない。


茜色は永遠に続くようだ。


それとも自分の時間が止まっているのかもしれない。


2019(R1)9/7(土)

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