第2話記憶の樹


夕焼けの電車はゆっくりとゆっくりと進んでいく。


「あなたは多分遠くを見ているのね」


 曲がり線路で車両が傾く。


「このままどこかに連れてって」


「(声にならない叫びを感じるぞ)」


「次の停車駅は眠の樹、眠の樹」


 電車は駅にゆっくり止まる。


「(幻の面影を追いかけているだけだ)」


 茶色のコートを着た紳士が入ってくる 。


「(思惑通りだな)」


「ねえ、行かないで」


 紳士はシートの端に座る。


「(出られないぞ)」


 出口が閉まり、電車は可動する。


 次の駅まで間延びした時間。


 思索を与えない情況。


 繰り返される記憶。


2019(R1)8/30(金)

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