アドベントカレンダーは誰のものだったのか

11月30日の夜、仕事から帰ると、何やら普段と違う雰囲気を感じた。


彼が来ているのかとも思ったけれど、どうも姿は見えない。


中に入ると、その違和感の正体にすぐ気付いた。


テーブルに、見知らぬクリスマスツリー型の箱が置いてある。


その脇には、彼からの手紙が添えてあった。


「僕からのクリスマスプレゼントです。

アドベントカレンダーなので、毎日朝に開けてね」


彼からプレゼントを貰った事はあるけれど、

その殆どがデート中に買って貰う事が多かった。


彼が言うには、


「一番欲しいものを買ってあげたい」

だそうだ。


だから、こういったプレゼントは初めてだった。


シャワーを浴び、部屋着に着替えた私は、ベッドへと倒れ込んだ。


ふと、彼がくれたアドベントカレンダーが視界に入る。


私はベッドでグニグニと悶えた。


「ヤバイ・・・嬉しすぎる。過去最高に素敵なプレゼントじゃん」


彼は私と付き合って以来、一度もサプライズなプレゼントはしてこなかった。


どうも私がそういった類のものは好きじゃないと彼は思っている様だった。


しかし、実際は全くの逆。


私はサプライズが猛烈に好きだ。


恋愛ドラマの様なサプライズなんてもうそれはそれは悶絶ものだ。


何となく恥ずかしくて彼には言っていないけれど、


少年漫画が並ぶ本棚の二列目には

胸キュンものの少女コミックがこっそりと全巻揃っている。


「明日から毎日楽しみだなー」


12月1日。


楽しみにし過ぎたのか、5時過ぎには目が覚めてしまっていた。


「一応もう朝だし、いいよね。開けちゃって」


私は1日のボックスに指を掛けた。


中には私の好きなチョコレートが1粒と、小さな手紙が入っていた。


手紙には


「12月24日と25日のスケジュールを開けておくこと」


と書かれていた。


なるほど、クリスマスイブはどこかでお泊りなんだなとすぐに理解した。


本当はすぐ彼にメッセージを送りたかったけれど、

流石に5時に起こされるのは可哀想か。


朝食を食べながら、映画のネタバレページを見て時間を潰し、

暫く経ってから


「24日と25日ね、わかった!」


と彼にメッセージを送った。


それからはアドベントカレンダーのボックスを開けるのが

毎朝の楽しみになっていた。


ボックスの中身は、チョコレートだけかと思いきや、

化粧品や調味料なんて日もあった。


少しでも飽きない様に、彼が工夫してくれたんだと、

私はそれに気付く度にベッドで転がり回って悶えた。


アドベントカレンダーも12月7日に突入した。


その日、

私はクリスマスツリー型のボックスの前に座ってとある事をずっと考えていた。


全部開けちゃいたい。


少し変なのかもしれないけれど、私は映画やドラマを見る時は、

先に結末を知ってから見るタイプだった。


その方が、安心して見られるし、

ちょっとしたサプライズも目いっぱい楽しめると思っている。


良いや、開けちゃおう!


私は7日にも関わらず、結局全てのボックスを開けてしまった。


相変わらずお菓子を中心に様々なプレゼントが入っている事に、

私は彼の愛情を感じた。


1日の時には、

てっきり何枚も手紙が入っているのだろうと思っていたけれど、

結局出てきたのは1日も含めて計3枚の手紙だけだった。


「えーっと、こっちの手紙は・・・24日に行くホテルの名前。

で、こっちの手紙は、時間と地図・・・ね」


何となく、彼がしようと思っているサプライズが見えてきた。


でも、これでは全容までは分からない。


彼の今までの行動パターンを考えると、

ここから派手なサプライズがある様には到底思えない。


正直、アドベントカレンダーの演出は素敵だし好きだけど、

これを超えるサプライズが彼に出来るかどうか。


「うーん。何となく心配」


翌日、私は早速行動に出ることにした。



24日行く予定のスペリオルホテルへ赴き、

フロントでブライダル・パーティ部のコンシェルジュに取り次いでもらう。


彼の名前とサプライズの件でと言うと、すぐに判ってくれた様だった。


私はここで一計を案じることにした。


「実は、彼のサプライズ計画は私のサプライズ計画のカモフラージュなんです。

彼から提案されているサプライズの内容、教えて貰って良いですか?」


担当してくれた女性のコンシェルジュは一瞬驚いた表情を見せたが、

すぐに理解してくれた様で、彼の名前が書かれたバインダーを持ってきてくれた。


内容を1つ1つ確認していくと、

やっぱり私の予想通り、物足りない内容のサプライズになっていた。


「これじゃ、サプライズとして不十分ですよね」

とコンシェルジュに言うと、


私もそう思ってたんです!とすぐに同意してくれた。


すっかりコンシェルジュを味方につけた私は、

彼のプランを内緒で変更する事にした。


「ふふふ。彼の驚く顔が目に浮かぶわ」


ほぼ1日で彼が考えたプランを変更し尽くし、

私は意気揚々とホテルを後にした。



彼は知らない。


あのアドベントカレンダーは私の巧みな心理操作で買う様に誘導されたことを。


彼は知らない。


私が何の仕事をしているかを。


彼は知らない。


私の父がホテル経営の第一人者であり、私がその後を継ぐことも。



彼は何も知らない。


だからこそ、私は彼に思い切りサプライズをして欲しかった。


ただ、マジメな彼の事だろうから、

色んな情報収集もするだろうと私は見越していた。


それにより、多少地味なサプライズになるだろうことも。


でも、彼だって色々考えてくれた。その気持ちが嬉しかった。


だから私は、彼のプランのベースはそのままに、

少しずつアレンジを加えることにした。



そして最後は盛大に。



彼は知らない。


私が彼と結婚したいと思った時から、


私のアドベントカレンダーが既に始まっていた事を。

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アドベント T_K @T_K

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