アドベント
「へ?」
僕はなんとも間抜けな声を出してしまった。
「さぁ、お部屋へレッツゴー!」
そう彼女が言うと、友人達からお幸せにー!との声が投げかけられる。
まるで引きずられるかの様に彼女にエスコートされ、エレベーターに乗り込む。
「カードキー、ここにかざして」
「あ、はい」
カードキーをエレベーターの装置にかざすと、自動的に階数が選択された。
最上階から僅か2つ下の34階がピカッと点灯する。
「えっと、部屋の番号は・・・」
確認しようと先程のカードキーを見やると、部屋の番号がどこにも書かれていない。
「こういうホテルは、
セキリュティの為にカードキーに番号は書かないものなんだよー」
彼女は僕の腕をグイと引っ張りながら、
まるで自分の家かの様にずんずんホテルを進んでいく。
とある番号の部屋の前で彼女はピタッと静止した。
どうやら、僕達の部屋はここの様だ。
カードキーを翳すと、あっと言う間にロックが解除される音が聞こえた。
恐る恐る扉を開けると、僕が予約した部屋よりも何倍も広い部屋がそこにはあった。
「サプライズってのはこれくらいしなきゃ」
彼女がポチッと何かのボタンを押した。
目の前のカーテンがウィーンと自動で開いていく。
開き切ると同時に、僕は思わず感嘆の声をあげた。
「わぁ、東京タワーだ」
眩い光を放つ、いつもとは違うイルミネーションの東京タワーがそこにあった。
「クリスマスだけ、このイルミネーションになるんだよ」
「へぇ、そうなんだ」
「良いよねー、この部屋。私のお気に入りなんだ」
「お。お気に入り?」
彼女は僕に寄り添いながら東京タワーを笑顔で見つめている。
もう僕は東京タワーの美しさを感じる余裕など微塵もない。
「ねぇ、サプライズって、これで終わりだよね」
僕は我慢出来ずに彼女へと尋ねた。
隣で彼女はあの悪戯な笑みを浮かべている。
嫌な予感がする。
彼女は僕の耳元で囁いた。
「それ言っちゃったら、サプライズじゃないでしょ?」
東京タワーはクリスマス限定のハートのイルミネーションで僕達を祝福している。
僕は、あぁ、明日クリスマスだっけと朧気な意識を辛うじて保っていた。
そう、きっと明日は明日でサプライズが待っている。
もしかすると、いや、もしかしなくても
この先もっと沢山のサプライズがある気がする。
あのアドベントカレンダーは彼女の物ではなく、
実は僕の物だった事を、僕は後々知る事になる。
それは何故かって?
「それ言っちゃったらサプライズにならないでしょ?」
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