タピ岡さんと女子高生の私

春風月葉

タピ岡さんと女子高生の私

 高校二年の夏、私達のクラスには一人の少女が転入してきた。

「初めまして、タピ岡です。仲良くしてくれると嬉しいです。よろしくお願いします。」彼女は紅茶色の長い髪を前に下ろして深くお辞儀した。

 彼女の第一印象はとにかく目立つ変わった子だった。

 目を惹く紅茶色の髪は可愛らしい桃色のリボンで纏めて右の肩にかけ、薄いミルク色の肌の丁度頰の部分には十数のそばかすが飾られており、同じ制服を着ていても彼女だけは遠目からでさえよくわかる容姿をしていた。

 少し、いや、だいぶ変わった転入生に新しいもの好きな同級生の女子達の興味が向くのは当然のことで、転入初日から彼女の周りには多くの人が集まっていた。

 私はその様子を遠目に見ながら、新しいことに夢中になっているだけで、数日もすればすぐに落ち着くだろうと考えていた。

 しかし、三週間が経っても彼女の周りの人は減るどころ増えているようだった。

 これに私は驚いた。

 そして同時に彼女のどこにそれほどの魅力があるのか、少しの興味を抱くようになった。

 だが、彼女に向いたものは何も興味だけではなかった。

 教室の隅では三週間前の私と同じようなことを考えている輩がボソボソと彼女について良くない話をしていることを私は聞き逃さなかった。

 それから数日、私は周りの人と同じように彼女に近づくようにした。

 そうしたことでわかったことは彼女が見た目に反して落ち着いた性格の穏やかな人物であること、騒ぎの原因は彼女本人ではなくその周りにいる人達であることだ。

 現に今日の彼女は他教室の生徒に髪を遊ばれ中世西洋の貴族のような見た目になっていた。

 少し気の毒にも思ったが、よく見ると彼女自身もクスクスと控えめに笑っていたため、私はホッとした。

 彼女も、彼女の周りの人達も、転入という機会を楽しみ、彼女を知り、彼女の持つ味に惹かれただけのことだったのだろう。

 彼女と目が合い、私は遠目から手を振り彼女と同じようにクスクスと笑った。

 そして彼女達のところまで歩み寄った。

 まだ遠目からボソボソと口を動かして彼女を見る人の気配はある。

 私は彼女達の方を一瞥した。

 それは別に牽制でもなんでもないただの一瞥だった。

 私は再びタピ岡さんの方を向く。

 彼女はキョトンと首を傾げてこちらを見る。

 同じ出会いならば、彼女との出会いを楽しもう。

 私は彼女の髪に手を伸ばした。

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タピ岡さんと女子高生の私 春風月葉 @HarukazeTsukiha

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