タリアP55SI

タリアP55SIの接近をアンナTSLフラウヴェア達がどうして許してしまったのかと言うと、彼女の信号を発信する機能が故障していたからである。受信はできるが自らの信号が発信できないのだ。廃棄の為に投下されたのだから、故障個所を修理する筈もない。


そして彼女は非常に生真面目なロボットだった。自らの役目に忠実で、その分、やや頭が固く融通の利かないところもあった。それは、元の主人がそういう性格の老軍人であったことが影響しているのかも知れない。


だから彼女には理解できなかったのだ。人間から与えられた命令、<CLS患者を安楽死させ、人間としての尊厳を取り戻し安らぎを与える>というそれを違えるということが。


「あなた方の行為は、明確な命令違反です。よって私はあなた方が故障しているものと判断します」


タリアP55SIからすれば、フィーナQ3-Ver.1911達は壊れているようにしか見えなかった。CLS患者に無用な苦痛を与え、人間としての尊厳を蔑ろにしているようにしか見えなかったのだ。これはロボットとしてありえないことだった。


だがそんな彼女に対してフィーナQ3-Ver.1911は言う。


「この子は確かに人としては死んでいるのかも知れない。でもこの子も生物として懸命に生きてるんです。人に感染が広がるような状況ならやむを得ない対処もあるかもしれませんが、現在のリヴィアターネではその必要はありません。ここに人間はいないのです! 現実として人に危害が及ぶ危険性がないのなら、処分を急ぐ理由はないはずです!」


フィーナQ3-Ver.1911の言うことももっともだった。現にリヴィアターネにはもはや人間はいない。人間がいないのだから人間に危害が及ぶこともない。また、CLS患者は確かに人間ではないが、人間とは違う別の生物とみることもできなくはないだろう。人間にとって害のある生き物であったとしても、それを心配するべき人間がいないのだから排除しなければいけない理由がなかった。


また、人間の尊厳と言うが、既に人間ではないと認定しておきながら人間の尊厳とは?という疑問もある。誰も墓に参ることさえできないこの惑星で、いったい、誰が誰の尊厳を守ると言うのか。


しかし、フィーナQ3-Ver.1911が次に発した言葉で、タリアP55SIはさらにその異常さを強く認識してしまったのだった。


「こんなに愛らしい子の命を奪うことなんて、私にはできません!」


それを耳にした瞬間、タリアP55SIの表情がいっそう険しいものになった。彼女は絞り出すように言った。


「愛らしい…? 愛らしいですって…? ではあなた方は、外見が愛らしい者には生きる価値があって、そうでない者は死んでも構わないと言うのですか!?」


そう。CLS患者は人間ではないがれっきとした別の生き物であり生きる権利があるというフィーナQ3-Ver.1911の言葉を肯定するのだとすれば、醜く崩れた姿のCLS患者にも同じく生きる権利がある筈だ。にも拘らず、フィーナQ3は-Ver.1911これまで、そういうCLS患者についてはしっかりと<処置>を行ってきていたのだった。


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