招かれざる客

アンナTSLフラウヴェア、プリムラEL808、フィーナQ3-Ver.1911、エレクシアYM10の四体と、トーマス、リンナ、レミカの三人の生活は、非常に落ち着いて穏やかなものだった。


プリムラEL808の隣の住宅を住処と決めたフィーナQ3-Ver.1911。三体とは少し離れたところのガレージを住処としたエレクシアYM10も、ここでの生活に馴染んでいった。


なお、アンナTSLフラウヴェアが住処としている住宅にはロボット用のメンテナンスルームが完備されており、電気はアミダ・リアクターによる自家発電、水は地下水の汲み上げと、生活するには申し分のない環境であった。


他の三体の住居にはメンテナンスルームは備えられていなかったが、アンナTSLフラウヴェア宅のメンテナンスルームを交代で利用すれば問題なかった。しかも、ここからしばらく行ったところにあるロボットのディーラーにもメンテナンスルームが残されており、自家発電用のアミダ・リアクターも機能していることが確認されているので、いざとなればそちらを利用しても良かった。


ただ、犯罪組織によって違法な改造を受けたエレクシアYM10は、通常のメンテナンスルームが利用できなかった。違法改造を検知するとそれが警察へと通報され、しかも強制シャットダウンで動けなくされてしまうからである。警察については今さら関係ないが、メンテナンスルーム側からの強制シャットダウンについては今も機能している筈なので、エレクシアYM10はリヴィアターネに来てから一度もメンテナンスを受けていなかった。


メンテナンスを受けなくてもすぐにどうこうというものでもないものの、物理メンテナンスが受けられないと、ソフトウェアの自己メンテナンスだけではいずれ機体(ハード)の側に不具合が生じ、やがて活動不可になってしまうことがある。短ければ数十年で彼女は動けなくなるだろう。だがエレクシアYM10はそれを気にしてはいなかった。どうせ違法な改造を受けた欠陥機である自分がこうして活動できていることがそもそも異常なのだ。暗殺を請け負っていた頃の記憶はないが、自己診断プログラムで自分が違法改造されていることは理解していた。故に彼女はどこか投げやりなところがあったのだとも言えるのかも知れない。


それでも、他の三体と一緒に、彼女も穏やかな生活を続けていた。


だが、そんな生活を始めて二ヶ月が過ぎた頃、それは突然やってきた。


「あなた方はどうして、CLS患者を処置しないのですか?」


腰まで届くブロンドの髪を垂らし、腰には日本刀、それも太刀と呼ばれる長大な刀が収まってると思しき鞘を下げて鋭い視線を向けてくるそれは、拠点を探して移動しつつCLS患者の処置を行ってきてこの集落を通りがかったメイトギア、タリアP55SIであった。


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