ティータイム
「同じ考えの方々に出会えてとても嬉しいです」
アンナTSLフラウヴェアとプリムラEL808に招き入れられ、庭に置かれたテーブルとチェアに着いたフィーナQ3-Ver.1911は笑顔でそう言った。
もっとも、アンナTSLフラウヴェアもプリムラEL808も彼女の言っていたことは単に聞き流しただけで、体裁として笑顔を向けているだけに過ぎない。
また、エレクシアYM10はそれまでの仏頂面を崩さず挨拶もなかったが、ロボットにはそういうことも珍しくないので誰も特に気にしてはいなかった。
そんな四人、いや四体の前には、紅茶が並べられていた。この家に残されていたものを再利用したのだ。人間の相手をすることもメイトギアの役目の一つなので、一応、飲食の真似事をする程度の機能は、比較的に高級と言われるような機種には備えられているものが多かったのである。ただこの中では残念ながらエレクシアYM10にはその機能はなかったが。
ちなみに、飲み食いしたものは専用の廃棄物入れに封入されて腹部のハッチから取り出せるようになっている。ただこれも全く意味のないお遊びの機能という訳でなく、この機能を有している機種の殆どにはある程度の毒物を検出できる分析器が備えられており、毒見役もできるようになっているのだ。とは言え今はそういうことですらなく、ただの人間の真似事でしかない。主人と一緒に暮らした時のことを再現しようとしているだけというのがよく分かる光景だった。
エレクシアYM10が冷めた表情をしているのは、そういう彼女らの振る舞いを無意味なものとして軽んじているからというのもあった。さりとて現状では敵対する理由もないので、大人しく付き合ってる状態ではある。
また、四体のすぐ傍には、トーマスとリンナとレミカがぼんやりと虚ろな表情で佇んでいた。さすがにこうして三人もの幼い子供が焦点も合わない視線を虚空に向けているというのは、いささか異様な光景にも見えた。ただ、人間の場合は脳機能の問題からこういう姿を見せる者もいるというのをメイトギア達は知っているので、それを気味悪がったり蔑んだりすることもなかった。そういうものとして受け入れるだけなのだ。
すると、リンナとレミカが不意に動き出して、四体の方に歩み寄ってきた。両手を前に突き出し口を大きく開け、一番近くにいたフィーナQ3-Ver.1911の腕に食らいついてくる。彼女はそれを見て、
「はいはい、お腹が空いたのね」
と、プリムラEL808がトーマスに掛けたものと同じ言葉を掛けて目を細めた。リンナとレミカを自分の腕にかじりつかせたまま脇に置いたバッグを開けて、子供が使っているような虫かごを取り出し、その中から大きな虫を二匹、掴みだした。それは、ダンゴムシに似ているが大きさはニ十センチくらいある生き物だった。
その虫をそれぞれ一匹ずつ受け取り、リンナとレミカは躊躇うことなくバリバリと丸かじりにしたのだった。
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