選民思想

リンナやレミカ、トーマスを守りながら、しかし外見が醜く崩れた痛ましい姿のCLS患者については、フィーナQ3-Ver.1911は容赦なく<処置>してきた。これはひどい矛盾と言えるだろう。彼女の論理が根底から覆る行状だ。


タリアP55SIは言う。


「CLS患者が人間ではない別の生き物であると言うのなら、どうしてその子たち以外のCLS患者も守らないんですか!? あなた方の行いは矛盾に満ちてます! 美しいものは生き、醜いものは死すべきとあなた方は言うのですか!? それは私達の造物主たる人間がもっとも忌み嫌う<選民思想>に他ならないのではないですか!?」


それに対してフィーナQ3-Ver.1911も一歩も引かなかった。


「ある条件下においてそれに適応した個体が生き延びるのは自然の摂理です! 私はそれに協力してるに過ぎない!」


だがこの時、フィーナQ3-Ver.1911の背後で二体のやり取りを見ていたアンナTSLフラウヴェアとプリムラEL808の表情には、明らかな戸惑いが見えていた。最初に彼女が自説を語った時から分かってはいたものの、改めて自分達の考え方とはあまりにも違うことを認識させられたからである。


アンナTSLフラウヴェアとプリムラEL808は、あくまでトーマスが人間として確実に死亡していると断定できないが故にそれを守ろうとしてきた。損傷が酷いCLS患者を処置できたのは、外見上も生きているとは判断できなかったからであって、醜いから処置した訳ではない。結果として幼い子供のCLS患者を守ろうとはしているが、彼女達とフィーナQ3-Ver.1911との間には、トーマス達に対する認識において大きな隔たりがあるのが鮮明になってしまったのだった。


それでも現状では、タリアP55SIがトーマスをもCLS患者として処置するべきと言っていることには変わりなく、その点においての利害は一致している。


『少なくともタリアP55SIが脅威であるという点では異論はありませんが…』


『そうですね、私はトーマスを守ります。その為に必要な措置は取ります』


と、このまま共闘体制は維持しようという判断がアンナTSLフラウヴェアとプリムラEL808の間で確認された。


その時、タリアP55SIがまるで傍観者のように冷めた視線で自分達のやり取りを見ていたエレクシアYM10へと視線を向けたのだった。


「あなたはどうなのですか!? あなたも彼女達と同じ考えなのですか!?」


そんな問い掛けに、エレクシアYM10は面倒臭そうに応えた。


「私には、あんたらのお題目なんかどうでもいいんだよ。命令なんか糞くらえだ。私は自分の興味のあることをする。今はこいつらが何をするつもりか確かめたいだけだ」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る