信号

その日、エレクシアYM10は、数日前からまったくCLS患者が現れなかった為に、以前から気になっていた件の調査を行うことにした。この拠点から一キロほど離れたところに、活動中のロボットの反応があるのだ。しかしそのロボットは、発信されている信号を見る限り、どうやら戦闘モードや緊急モードで作動しているわけではないらしい。この状況下にあるにも拘らず、ずっと通常モードで作動し続けているのである。


エレクシアYM10がこの拠点に来てから既に三七七日。その信号にはすぐに気付いた。しかし自分の任務には関係ない情報だったので敢えて関知せずにいたが、標準時で一年以上、その状態が続いている。さすがに気にはなっていたのだった。彼女自身、長くここにいた為か、若干、様子が変わってきつつあった。


最初はそれこそ、CLS患者をハチの巣にして処置していたのが、最近では頭部への一撃だけで済ますようになっていたのだ。武器も弾薬もまだ豊富にあるにも拘わらず。


それが何を意味するのか、詳細に調べる者がいない為に分からない。ロボットたちは非常に高度なAIを搭載していて学習し自らを更新していくことが出来る。それにより、無駄なことをする意味がないということを学習したのかも知れない。もしくは、たまにCLS患者が現れることを除けばあまりに平和でのんびりとしたこの地の牧歌的な空気に感化されてしまったのかも知れない。


いずれにせよ、任務に就いたばかりの頃の殺伐とした印象が薄れているのは確かだった。だからか、以前から気になっていた。いや、気になってきたその信号を確認してみようと思ったのだろう。




そこは、個人の屋敷のようだった。爆撃の目標だった都市部からは十分に離れていることと、他の人家がある場所からはかなり離れていたからか、あのような出来事があったとは全く想像もつかないくらい、普通の状態が保たれた平穏な光景だった。平和だった頃のリヴィアターネはこうだったのだろうという実例がそこにはあった。


ロボットの信号は、その屋敷の中からだった。エレクシアYM10の接近は向こうも気付いている筈だが、今も通常モードで作動している。警戒している様子はない。


そこで彼女は、普通に知人の家を訪ねるようにその屋敷のチャイムを押した。


「はーい」


明るく穏やかな返事が中から聞こえ、ドアが開けられた。彼女はいつでも銃を抜いて撃てるように、ホルスターに手を掛けていたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る