エレクシアYM10

惑星リヴィアターネ上で、ロボット艦隊による爆撃を逃れたCLS患者が果たしてどれくらいいるのかは、実は総合政府も把握出来ていなかった。決して少なくない数であろうことは推測していたものの、具体的な数や分布については殆ど何も分かっていない状態である。


その為、多いところでは日に何人ものCLS患者を処置するロボットがいる一方で、配置に就いてから一度もCLS患者に出会ったことがないというロボットもいた。


彼女、エレクシアYM10もまたそういうロボットの一体であった。彼女のいる場所ではCLS患者の出現頻度は精々一日に一人か二人。何日も現れないことも多い。そういう場所だった。


しかし彼女は、他の多くのロボットとは少し違う経緯でリヴィアターネに廃棄された、この場所に配置されるには少々皮肉な存在だった。


と言うのも、彼女は総合政府の管理も行き届かない辺境の惑星で、犯罪組織によって違法な改造を施され、数々の暗殺任務をこなしてきた<殺し屋ロボット>だったのである。その為、証拠となるデータだけ回収されたら即解体処分される筈だったものが、確保されたのがこのリヴィアターネにほど近い星域だったこともあり、初期化を施した上で改めてCLS患者の処置という任務を与えられて、ここに投棄されたのであった。


初期化された為に自らが暗殺を行ってきた殺し屋であるということは彼女は覚えていない。しかし、人間を殺す為に違法な改造を受けた彼女は元々人間を守るという認識がなく、故にCLS患者の処置も、特別な解釈も必要なく一切の躊躇なく行うことが出来た。


通常、CLS患者は一見して生きてるとは思えないくらいの外見をしているが、十分に体が小さいと体液の循環がスムーズに行える為か、『ひょっとして生きてるのでは?』と人間では思ってしまうようなきれいな姿のままのCLS患者もいた。それらの殆どは、幼い子供のCLS患者だった。


それでも彼女は躊躇ったりしなかった。こちらに気付いて襲いかかってくる前でも、幼い子供がただぼんやりと佇んでるようにしか見えない場合でも、容赦なく<処置>した。頭だけを破壊すればいいというのに、自動小銃をフルオート設定にして、それこそハチの巣にして殺した。


彼女がいた拠点にはなぜか不必要なくらいに武器が豊富にあり、既に有効使用期限の切れた銃弾も山のようにあったことから、彼女は、CLS患者の処置の為と言うよりは、余った弾薬を消費する為にそれを使っているということを目的に、自らの任務を果たしているといった風情なのであった。


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