慟哭

フィーナQ3-Ver.1911がCLS患者の少女と一緒にいる間も次々と他のCLS患者が現れたが、そのどれもが見ていることさえ心苦しくなる痛ましい姿をしており、だから彼女も躊躇うことなく処置出来た。安らかな死を与える為に。


そんな毎日を送るうちに、彼女はまるで自分に懐いているかのような様子を見せるCLS患者の少女のことをこのまま自分の傍に置いておけばいいと思うようになっていた。虫や魚を食料として与えておけば大人しくしているのだから、何も殺すことまでしなくてもいいと考えていたのである。


彼女の判断は、特に問題がある訳ではなかった。この地にはもはや人間はいないのだから新たに感染者を増やす心配もなく、またロボットにとって少女は何一つ驚異たりえないのだから。


彼女がそう結論付けて数日後、近くの川では魚が見当たらなかった為に、彼女は少し遠出して魚を捕まえようと考えた。幸い、今日はCLS患者が現れる気配もない。そこで少女を拠点に残し、川の上流を目指して移動した。


拠点に残された少女が何を考えていたのかは、分からない。彼女の後を追おうとしたのか、自ら何か食料を探しに出たのかは、確認しようもない。とにかく少女は彼女がいない拠点を離れ、川の上流に向かい歩き出したのだった。


そしてしばらく歩いたところで、突然、少女の頭が目に見えない何かで殴られたかのように跳ねてその場に倒れ伏し、動かなくなった。その少女の頭には、明らかに銃で撃たれた痕があった。


その時、少女から三千メートルほど離れたところに、テルキネルFJ3スナイパーライフルを構えたフローリアCS-MD9の姿があった。フローリアCS-MD9が、少女を狙撃したのである。


フローリアCS-MD9の行為にも、何の問題もない。自らの拠点を中心に周囲のCLS患者を処置するのが彼女らの任務であり、それぞれが管轄するエリアを相互にフォローし合うのも任務のうちなのだから。故に責めることは決して出来ない。


それでも、フィーナQ3-Ver.1911は納得がいかなかったのだろう。魚を手にした彼女が拠点に帰る途中で発見した少女の亡骸を狂おしいまでに抱き締める姿があった。


『どうして…どうしてこんな……』


それから数日後、バラバラに解体されたフローリアCS-MD9が、グローネンKS6によって発見されたのだった。その切り口は非常に美しく、明らかに超振動ブレードかそれに類するものによる切断だということが推測された。


ちなみに、フィーナQ3-Ver.1911には、非常に強力な超振動ワイヤーが標準装備として内蔵されていたことも、明記しておきたい。


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