個性

偽生症(Counterfeit Life Syndrome)=CLS患者を手早く安楽死させる為には、頭を切り離すか破壊するしかない。体を狙ってもすぐには活動を停止しない。それは分かっていた。だからそれは仕方なかった。だが、彼女はあくまでCLS患者を労わりたかっただけだ。なのに、頭を完全に粉砕したどころかもはや人の形さえ失わせてしまった。それは彼女を非常に混乱させた。


残ったサラリーマン風の男性に対しては戦闘用ナイフを頭に突き立て中を破壊することで対処した。彼女は仕事を果たしたのだ。けれど彼女はその後、再びウルトK7ボクサー散弾銃を手に取り、自らの胸の部分にあるメンテナンス用のハッチを開け、銃口をその中へと押し込んで引き金を引いたのだった。外装には非常に強力な防弾性能があり、この程度の散弾銃では貫通さえしないからそうしたのである。


そして、アレクシオーネPJ9S5は自らのメインフレーム(彼女を制御するAIの根幹部分)を破壊するという形でその機能を停止した。


彼女は許せなかったのだ。自らの迂闊さを。だが、ここにはそんな自分を罰してくれる人間はいない。故に彼女は自らを罰した。


彼女の体はその場に跪くようにしてただの残骸となり、彼女の髪を乾いた風が揺らしていた。




その数日後、機能停止したアレクシオーネPJ9S5の前に、人影が現れた。CLS患者ではない。彼女と全く同じ姿をしたアレクシオーネPJ9S5だった。彼女と同じように廃棄され、同じようにこの拠点を目指して移動してきて、こうして辿り着いたという訳だった。


新しく現れたアレクシオーネPJ9S5は、胸のメンテナンスハッチを開けた状態で跪く同型機を静かに見下ろし、そしておもむろに機能停止したアレクシオーネPJ9S5の後頭部を探って、そこからメモリーカードを取り出した。それを自らの予備のスロットに装着すると、全てを察したように頷いた。機能停止した方のアレクシオーネPJ9S5のバックアップメモリーによって何があったのかを把握したのである。


そんなアレクシオーネPJ9S5の背後から近付く影があった。CLS患者だった。すると彼女は、停止したアレクシオーネPJ9S5が手にしていたウルトK7ボクサー散弾銃を手に取り、振り向きざまに引き金を引いた。


それは、白いドレスを着た、おそらく十歳に満たない少女だった。その小さな体は、至近距離からのウルトK7ボクサー散弾銃の直撃を受け、腰から上が粉砕された。だが、彼女は何事もなかったようにその場で銃を構え、次のCLS患者を待ったのだった。


同じアレクシオーネPJ9S5であっても、それまでの経験などによって判断が変わるのである。


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