彼女の誤算
偽生症(Counterfeit Life Syndrome)=CLS患者をおびき寄せる餌は、彼女自身である。
だから彼女は、自分が収納されていた廃棄コンテナに同梱されていた武器の中で使えるものを運び出し、装備しているのだ。
そうなると当然、コンテナからここに来るまでの道中もCLS患者に絶え間なく襲われたが、彼女はそれらすべてを持ち出した装備で対処してきた。その為、弾薬が尽きたものはそのまま放棄もした。そこで彼女はなるべく消耗を避ける為、戦闘用大型ナイフを中心にして、その場その場で確保した金属片や金属パイプ等を即席の武器として使用したりもしたのだった。
幸い、ロボット艦隊の爆撃によって破壊されつくした都市の一つであったその通り道には自動車や建造物の残骸等が散乱し、武器の材料となりそうなものには事欠かなかった。しかも、拠点から僅か五キロほどしか離れていないところにはロボット艦隊の戦闘艦の残骸が残され、中を確認してみるとロボット兵士用の装備がいくつかまだ使えそうな状態で残されていたのである。地上降下用のコンテナは非常に強固に作られている為、落着の衝撃やその際の爆発にも辛うじて耐えたものが僅かだがあったという訳だ。
そしてこの日、彼女が装備していたのは、ロボット艦隊の戦闘艦の残骸から回収したウルトK7ボクサー散弾銃であった。これは、対人用としては少々過剰な威力を持つ大型の散弾銃で、基本的には機械化部隊との戦闘を想定されたロボット兵士用の装備である。弾丸は大型ケースが丸ごと残っていたので、千発はある筈だった。当面はこれで間に合うだろう。
それを構え、彼女はただ待った。すると一時間もしないうちに、どこで見ていたのか嗅ぎつけたのか、さっそく三人のCLS患者が現れた。青いワンピースを着た若い女性と、短いズボンを穿いた少年と、スーツを着た男性だった。
彼女はその三人に向かってゆっくりと歩き、十分に引き付けてからおもむろにウルトK7ボクサー散弾銃の引き金を引いた。すると対人用には過剰な威力故に、頭どころか胸から上が跡形もなく粉砕され、流れ弾でその後方にいた少年の頭も破壊された。
「……」
ロボットであることから人間のように分かりやすく動揺はしないものの、そのあまりの威力に、彼女は再び引き金を引くことを躊躇った。
要人警護用として戦闘力を持つとはいえ、全ての武器のデータを把握してる訳ではない。大型のショットガン故にかなりの威力はあるだろうと予測はしていたがさすがに彼女にとっても思いがけないものであった。
彼女自身は決して、ゾンビ狩りをしているつもりはないのだ。あくまでCLS患者を安らかに眠らせてやりたいだけなのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます