非日常なバイトと非日常な清掃は突然に
さて朝食を済ませた俺はエメラを愛でながら今日からのバイトの日程を確認する、あんな出来事があったというのにバイトの日程を確認をする辺り、俺って奴は余程肝がすわっているか
生粋の社畜に違いない…と他人事のように心の奥から、ため息をつく…。「今日は、お昼にバイトが一件っと…」 そういえば今日から新人が入るとか、店長が言ってたな。新人教育は苦手だからいつも通りに、自然な形で同僚に押し付けよう…。だが、この時の俺は忘れていたこの日常が既に非日常な事を…。それがバイトの時もだ…。
さて、バイトの時間になるので昼食をライナに作って貰い。それを食する…。ライナの作る食事はどれも美味しく、なんなら、騎士なんかやらなくてもいいくらい。一流レストランでも通用するくらい、レベルが高い。
よしっ!準備は出来たな。あとは、ライナ特製のお弁当を包んだ巾着をリュックに詰めてっと…、何だろう…?こ未知の冒険の始まりを予感させるような不思議な高揚感は…。リュックを背負いながら考える。そして、ライナに一言、「じゃあライナ、留守を頼むよ」 そしてライナの一言「気を付けて行ってらっしゃい」 「行ってくるよ」そう言って玄関の扉を開ける、。外に立つとライナの相棒である、フォンちゃんことグリフォンが俺の自宅周りの上空をパトロールするかのように飛んでいる…。こんな非日常な日常の始まりが、かつてあっただろうか…。あの死闘は二度と味わいたくはないが、あの出来事以来この非日常が訪れたのだ。外の空気も一段と美味く感じる。そして近くに停めてある自転車に乗り、走らせる。車道には相変わらず何台か車が走っているがぼちぼち変化が見られた歩行者用道路の脇にある用水路には見た事ない大型魚が見られたしその脇に植えてある樹には手のひらサイズの虫が止まってたりと…、通勤時の楽しみが一層増した感じがする。
そうして自転車を走らせていると目の前には俺のバイト先、定食屋が、だが、入口が工事中のようだ…。その為、裏口から入る事に。そして事務室に入りユニフォームに着替えると休憩中の女同僚の一人がスマホの画面を見せながら「これ知ってる!?」『夜の電車を襲った怪異!?』と大きな見出が画面いっぱいにデカデカと写っている。どうやらあの出来事を取り上げたネットニュースらしいが…。(それなら、よ〜く知ってるよ…。なんせ当事者ですから…)教えてあげてもいいが、あれこれ聞かれるのも面倒なので、知らないふりをする事に「へぇ〜っ不思議なこともあるもんだな〜」とリアクションすると女同僚の一人が不満げに一言「な〜によ〜?その普通過ぎるリアクションは〜?アンタ日頃から非日常な事起きないかな〜?ってぼやいてたじゃな〜い?」 「ぼやきはしたがそんな風にウザくぼやいてはないっ!」
と、そんな時、事務室の扉からノックの音が鳴り、俺は扉を開いた、そこには緑色の肌をした小柄な女の人がちんまりと立っている…、そして小柄な女の人は一言「あ、あの…今日からお世話になります…、リンですっ!」ボー然としていると同僚が俺の背中越しにその人を見て、「お、今日来るって話のゴブリンじゃん?」そう言うとリンと名乗る女の人は「は、はいっ!一生懸命頑張るので、ご指導の程宜しくお願いします!あ、あの…?リンの顔に何か付いてます…?」そう言ってボー然とする俺に話しかける。いやいや…!ゴブリンって、あのゴブリンっ!?取り敢えず、落ち着け俺っ!「い、いやぁ…、何でもないですよ…あははっ…」愛想笑いをして何でも無い事を伝え、それを見ていた男同僚が一言、「おいおい?女のゴブリンに見惚れたか?」といじわるな笑みを浮かべる、それを否定するように強く「違うわ!!ってか、普通にゴブリンがアルバイトなんて見た事も聞いた事も無いだが!?」 「はいはい」と、あたふたする俺を尻目にテキパキと動く同僚達…。一人は店長に電話を入れ、もう一人はリン用のユニフォームをリンに差し出すそして更衣室に案内して、事務室にはボー然とする俺だけが取り残された…。
そして、勤務開始の時間がやってきた。リンさんは俺の予想を遥かに上回る働きぶりだ…、教えた業務はしっかりと頭に入っているし、しかし、ゴブリンは等しく頭の回転が悪く、性格も野蛮…力だけが取り柄の群れる小物…と、ゲームでは教えられてるけども、これは、ゴブリンの認識を改める必要があるな…。 そんなことを思っていると男同僚の一人から声を掛けられる「おーい?細矢ー?」ととっ…、俺も働かないとな…。
そうして働いていると次々と客達が入りその中には人間だけでなく、犬や猫、鳥の亜人種…?スライム…?のような不定形生物もちらほら見掛けるようになった、人間以外の生物が人間の食べ物を食べる姿は違和感しかない…ここは何だ…?現代の日本なのか!?従業員にはあの新人ゴブリン…もいるし…、正直、ワクワクよりも不安が勝っている…。そんな時、客席の方から騒ぎが起きる。俺が駆け付けると客の一人が「おねーさん!あのスライム、何とかしてっ!!」そう言って、俺が客席の角に眼をやると、一際大きなスライムが他のお客さんに出した筈の商品を喰い荒らしている…。俺は意を決してそのスライムに声を掛ける「あのっ!お客さま!それは他のお客さんに出した商品ですけども!?それと!他のお客さまに迷惑を掛ける行為は控えて下さい!!」そう言って注意すると逆ギレするかのように激しく身体を揺さぶり周囲に不快な液体をばら撒く…。あ、これは話しの通じない相手だわ…。こういう迷惑な客は、強制退店だな…。「リンさん!ありったけの洗剤を含めたモップを取って来てっ!」するとリンさんが「えっ…、良いのですか…?」と俺に尋ねる。「店長には後で俺から謝るから持って来て!」そう言ってリンを行かせる。その間俺は決闘のフィールドを作ろうとテーブル、椅子を集め、その間もちょくちょく動きまわるのでテーブルに備え付けた七味唐辛子をぶつけて大人しくさせる、と言っても言う程大人しくはなってないが…動きが鈍ればそれで充分だ。そうしているうちに即席の決闘フィールドが完成しリンも、ありったけの洗剤をしみ込ませたモップを完成させたようで、リンから声が掛かる「細矢先輩っ!頼まれたモップですっ!!」と言って俺に投げ付ける、俺はそれを華麗にキャッチする、奥の厨房から拍手が聞こえるが無視だ。「さて…?お客様、強制退店のお時間ですっ!」お、この台詞は決闘前の台詞として使えるのでは…?
さてこの決闘(清掃)の流れはこうだ、ありったけの椅子とテーブルを出口まで積み上げた、あとは洗剤を多く含むモップでひたすら叩く、攻略の鍵はいかにして出口へと追いやるか、即席の壁が壊されるかどうかでこの決闘もとい清掃は雌雄を決する…そして俺から動く「モップスラアァッシュ!!」それっぽい技名を叫びながら洗剤をふんだんに含めたモップを縦に振るう、さの時いくらか洗剤の雫が俺の頭に振り掛かったがこの時はユニフォームの一部である帽子を被っているのでノーダメージだ。いくらスライム相手でもこの高濃度の洗剤には太刀打ち出来ないだろう、洗剤モップの一撃を受けたスライムは仰け反りながら出口へと後退する、よしよし…。狙いどうりだ…。続けて、次の一撃を入れる「モップスラッシュ横薙ぎ!!!」モップの洗剤が横に跳ね。白い斬撃を描くようにスライムと即席の壁に当たる、次の瞬間、スライムはその場に多くの体液をばら撒き崩れ去る…。当たりどころが悪かったのかそれは分からないが崩れ去ったスライムの欠片はその場に蠢くばかりで抵抗する力は無さそうだ…、そして生死の確認をするためにモップの持ち手でスライムのぶよぶよした欠片を複数突いて俺は壁の隙間から厨房にいる同僚達に声を掛ける「あれ、持って来てくれるかー?」 同僚の一人が確認の1言を発する「終わったの〜?」それに答える俺「終わったー」そして同僚達と新人は安堵の息を吐く 「それで〜?何を持って来たらいい〜?」それに俺は微笑みながら1言「嘔吐凝固剤♪」
こうしてバイト先での非日常な清掃は終わりを告げるのだった…。
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