捨ててきてよ

アール

捨ててきてよ

「早くそんなもの捨てて来てよ」


妻はいつも自分にとって気にいらないものを夫が買ってくればそう言う。


全く、これほど鬱陶しい女はそういない。


あの女、今すぐ殴って黙らせてやろうかとも

夫は考えたが、すぐに思いとどまった。


妻に対して反抗出来るような勇気が彼に

あるのなら、現在このように尻に敷かれた毎日を送ってなどいない。


そしてその妻のお決まりの言葉は、夫に対して

容赦なく放たれた。


「お、おい。

それはあんまりだろう。

お前はこの子達をみて可哀想だとは思わないのか。

飼い主に捨てられたのか、道の隅でブルブルと震えていたんだぞ……」


「そんなの知ったこっちゃないわよ。

貴方も知っているでしょ?

私が大の動物嫌いであることを。

……ああ、もう! なんて汚らわしい見た目をした動物なのかしら。

早くそんなもの捨ててきてよ……」


夫の必死の説得にも、

妻は全く耳を貸そうとはしない。


心が折れた彼は説得を諦めてしまい、

可愛らしい2匹のペットが入った檻と共に宇宙船へと乗り込んだ。


「どこか生き物の住める環境が整った適当な星があれば良いのだが」


そう呟きマップを広げながら探していると、一つの小さな星が目についた。


「うむ、やはりこの星が適当だろうな」


そう呟くと宇宙船のエンジンを盛大に吹かせ、その星へと向かった。


その星はいつも夫が妻に「捨ててこい」と言われた時、必ず捨てにやってきた星であった。


「とうとうこいつらまで捨てに来る日がこようとはな」


夫はそう呟くと、檻の扉を目一杯開けた。


ペット達は檻からゆっくり出てきて、外の世界と夫の顔を何度も何度も交互に眺めていたが、

やがて彼を残してその場から走り去って行った。


「うう…、幸せに生きてくれよ」


そう涙を流しながら夫は呟くと、

宇宙船に乗り込んだ。


そして名残惜しそうにしばらくの間、窓からその星の風景を眺めていたが、やがてレバーを動かし、妻の待つ故郷の星へと帰って行った。


そして残された2匹のペットはその後、

たくましくその星で生きていった。


なにせその星には他にも、男が妻に

「捨ててきてよ」と言われた植物や昆虫、ペットの魚などがいたため、食べ物に困る事はない。






しかし夫の方は星に帰ったからというもの、たまに


「どうして俺は妻の言われるがままに罪もないペット達を捨ててしまったのだろう」


と顔についた5つの目から後悔の涙を流す。


2匹のペット達がその後「アダム」と「イブ」を名乗り、繁栄していったことも知らずに。





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