5話 ピンチ×ピンチ
――
「なんと弱き
とゲオルクは憐れみを表し、そして、堪えきれずひとり高笑った。梨愛は痛みと屈辱でスクレーパーの柄を強く握りしめた。
――ウルズの泉の封印さえ解ければ――
と梨愛はさらに悔やむ。あまりにも無様な神の姿に、なおもゲオルクはせせら笑う。
「笑いが止まらない。さて死にゆく神へ少しばかり話題を変えさせていただこう…貴様、ブリュニーの
「・・・吸血鬼に渡すもんなんかあるわけないでしょ」
「
「
「では文字通り、何もないのだな?」
梨愛は眉をひそめた。
「・・・・・・」
「図星か。それもそのはず、貴様らアース神族では絶対に見つけられないのだからな!」
「梨愛たちでは見つけられない?どういうことなの!」
「貴様にくれてやる情報などひとつもない。なぜなら貴様はこの場で死ぬからだ。さらなる
ゲオルクは拳を突き上げた。
すると異形の目玉が姿を現し、人外である腕が悲鳴にも似た音で目玉を突き破り、梨愛の体を鷲掴みにした。スクレーパーを手放してしまい、残った力で足掻くが圧倒的な
「ぐっ・・・だめ、力が入らない」
「このまま握りつぶして貴様の血を抽出してやるとでもするか。残りはガルムにでもくれてやる」
さらばだ戦乙女。ゲオルクが軽快に指を弾くと鷲掴みにする手の力が急激に強まった。締めつける力が増す度、梨愛の生命は容赦なく削られていく。ゲオルクは心地が良い。
「人間に力を奪われた神々が
「オーディンさまのため、ブリュニーの泪を見つけるまでは・・・梨愛は死ねない・・・っ!!ああああああ」
「何を考えているのかわかりたくもないが、貴様は死ぬ。望みも叶わぬまま、悲しみの中で!」
「に、人間なんて愚か者。人間なんて勝手。で、でも!それでも!アース神族は人間と生きなけきゃいけないっ!」
と梨愛は悲痛の声をあげたが、もはやゲオルクの耳には入らなかった。血と泪が欲しい。ただそれだけであった。
「さて神の血か。かつて貴様の主、オーディンがミーミルの首を切り落としその血を口にしたそうだな。少しばかり格は劣るがなにせうら若き乙女の血だ、格別に違いない。まがい物でありながらも神である貴様を殺し、その力を我が物とするのだ。この
ゲオルクは
「もとよりアース神族は原祖神ブリュニーの血液を分け与えられた、奴の分身と呼ぶべき存在。先の戦役でほとんど力を失っているとはいえアース神族に相違ない。苦痛に歪む戦乙女の瞳から零れ落ちる泪、一体どのような輝きを放っているのか。とうとう余も世界の創造主に」
とゲオルクが下心に満ちた狂気の笑みで大鎌を放とうとしたその時。
「何をしているんですか原木さん!休憩時間はとっくに終わっていますよ!」
作業時間になってもちっとも梨愛が現れないことに腹を立てた御手洗が腕を組んで立っていた。
一番驚いた顔をさせていたのは、ゲオルクであった。
「ば、馬鹿な!なぜ人間ごときが我が
御手洗はゲオルクの言ったことがわからなかった。確かにトイレの扉を開けたら崩れかかった宮殿建物内であったし、なぜ自分がこんな所に紛れ込んだのかもわからない。ただ、部外者を巻き込んだ梨愛のイタズラであろうと解釈した。
一方で、梨愛は意識が限界を迎える中で困惑と安堵が交錯していたが、やはり困惑が勝った。
「どうして。逃げて御手洗さん・・・逃げて、逃げて!」
人間である御手洗ではこの状況を打破できるどころか、その生命さえ落としてしまう。
この場から遠ざけなければ。
梨愛はなりふり構わず懸命に叫び続けていた。
「どうやって侵入したのか不明だがまったく穢らわしい男め、まずはその汚い首をはねてしまおう」
「っ!やめて、その人は人間」
梨愛の止めに躊躇することなく、ゲオルクは大鎌を構える。
「きれいな鮮血の花を咲かせたまえ!」
空中で体を高速回転させ、大鎌を御手洗めがけて投げつけた。
空気を切り裂く轟音ともに一直線に御手洗に襲いかかる大鎌。鎌はみるみると髑髏と変化し、食い破らんと大きな顎を開いた。御手洗は一秒も経たない後の死を予感した。
せめてものの抵抗として御手洗は目をギュッと瞑り、両手を前へ突き出した。
「うわああああああああ」
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