第14話 ぬか喜びのぬかって、ぬか漬けのぬかなの?
マジックスクロールの存在を知って、自分の特性を活かしてチートが出来る可能性に思い至ってしまった。
マスター称号だから魔法文字を知らなくても、こういう効果があれば良いなと思うものをそのまま出力できるのだ。
現実世界風に言えば、プログラミングにおいて言語の勉強もせずにやりたいことが出来るというものだ。
これはチートと言っても過言ではないだろう。
俺は疑問顔で俺を見るガウマンさんに、自分の特性について説明をする。
「俺の特性って言語で称号がマスターなんです。だから勉強してなくても読めるみたいです」
「ほほぅ、そりゃすげぇや。」
「そして称号がマスター故に、勉強していなくても書くことが出来るんです!」
「なにぃ!?」
つまり冒険に出たりした時に、盗賊に襲われたりやモンスターの襲撃などその時の状況に応じて、その場で最適な魔法を生み出しピンチな状況を切り抜けることが出来るのだ。
俺自身が作ったスクロールを使えるわけでは無いことが難点ではあるが、仲間に魔法が使える人がいれば解決だ。
そんでもって活躍した俺に対してデレデレになるパーティーメンバーによる(何故か女性であること前提)俺の争奪戦なんか開始されちゃったりして……
嗚呼っ……そ、そんな……駄目だよ!
俺にはエルと言う心に決めた女性が……ええっ!? そ、そんな凄い事を……ああっ……やぶさかではないッ! やぶさかではないぞぉ……ウヘヘ。
勝った! 俺の異世界生活の勝利が確定した!
さあさあ今すぐあらすじのチート無双なしの項目を訂正するのだぁ! ガハハ。
「おい、嬢ちゃん……旦那の様子が変だぞ? ニヤニヤしたかと思えばガハハと高笑いしたりしてよ」
「ああ、タケル様は定期的にそうなるんですよ。しばらくしていたら元に戻るのでそのままで大丈夫です」
「そうかぁ……嬢ちゃんも大変だな」
「もう慣れました。私は調理器具の所に戻りますね」
妄想が長引いたな……イカンイカン。
改めてガウマンさんの方を見ると、なんだか生暖かい目で見られていた。
何があったんだろう……まぁいいや、ガウマンさんにもこの興奮を共有して欲しい。
「いいですか? 勉強していなくても書けるが故に、こういう効果のものがあれば良いなで書くことが出来るんです。つまりピンチに陥った時に、その状態を逆転できるスクロールを即興で作成することも出来るってことですよ!」
「ああ、そりゃ無理だぜ。旦那」
「え?」
え?
「魔法文字は魔力付与っていう特性がないと文字に魔力が宿らねぇんだよ。うちのスクロールは娘のジールが魔力付与の特性持ちだから、魔法文字の勉強をして作ってるんだぜ」
えーと……つまり?
「旦那が書いたものを、魔力付与特性持ちが複写すれば使えるだろうが……そのピンチの時ってぇのは……」
俺の理想では、
ピンチ到来→ハンサムな俺はこの場を打開出来るアイディアをひらめく→解決→モテモテ!
だったが現実は
ピンチ到来→ハンサムな俺(以下略)→魔力付与さんお願いします→間に合わずジ・エンド
ということだ。現実は非情である。
ただでさえ俺が書くのに時間が取られるのだ、それをもう一回複写する取れなれば危機的状況に間に合わないだろう。
つ、使いにくぅ……くそっ! なんか思ってたのと違う!!
ただでさえ俺が書くのに時間が取られるのだ、それをもう一回複写する取れなれば危機的状況に間に合わないだろう。
つ、使いにくぅ……くそっ! なんか思ってたのと違う!!
なんだよぉ……俺の異世界モテモテ計画が早くも頓挫したじゃんかよぉ。
ぬか喜びだよコンチクショー! 大体ぬか喜びのぬかってなんだよ! ぬか漬けのぬかなの!?
俺はその場で膝をつき、うなだれる。
一度持ち上げられただけに、悲しみが大きい……しばらく立ち直れそうにない。
「ああ! ちょっと目を離した隙きにタケル様が見たこと無いくらい落ち込んでらっしゃいます!」
うなだれる俺に気が付いたエルが、俺の側にやって来てくれる。
エルは俺の目の前で床に膝をつけて背中を擦ってくれる。
なんて優しい娘なんだろう……いい匂いもするし。
そしてこれはチャンスだ。
正直エルが背中を擦ってくれているだけでだいぶ持ち直しているが、このまま悲しんでいればもうちょっと甘やかしてくれるんじゃなかろうか……
俺は大胆にもそのほっそりとしたエルの腰に抱きつき、お腹に顔をうずめる。
「きゃっ......タケル様......」
エルは一瞬、驚いた様だが俺がヘコんでいるままなのに気づき、背中を擦っていた手で俺の頭をなでてくれている。
「旦那! そんなにヘコまなくても、オリジナルでスクロールの原文作れるだけも十分すごいですぜ!」
「そ、そうですよ! 話の流れはわかんないですけど、タケル様なら大丈夫ですよ!」
二人が俺を励ましてくれている。
正直エルのおかげで完全に立ち直っているので、二人の優しさに少々の罪悪感を感じる。
二人に申し訳ないから、ここいらで立ち直るとするか。
……でも最後にエルの匂いを堪能しよう! スゥゥゥ……ッハァァァァ。
「あっつい! タケル様! 私のお腹で深呼吸するのは止めてください!」
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「でも真面目な話、オリジナルでスクロールの原文作成は難しいかもですぜ。大抵の物はすでにあるから俺自身特にこれが必要だってのは、すぐに思いつかねけなぁ」
「そうですね……俺が想定していたのは、危機的状況での即興っていうのだから今考えろと言われても思いつかないですね」
でもチート無双は無理でも、このアドバンテージを捨てるのは惜しい。
なにかいいアイディアはないものか……
「タケル様は、遠い異国から来られたんですよね? タケル様の国とこの国の違いでなにか不便な事とかってありませんでしたか?」
なにか不便なことかぁ……ってもこの国に来て今日で3日目だからなぁ、今日の出来事で考えてみるか。
少し考えたところで、この異世界で体験した違いで不便したことを思いつく。
「そうだ! 写真だ!!」
「写真だぁ? 旦那の国とこの国でそんなに違いがあるんですかい?」
俺は自分の世界とこの世界の写真のプリントアウトの仕方の違いを説明する。
インクプリンターなどはさすがに無理だろうから、アナログでの現像からプリントまでに絞ったものとなる。
アナログは時間はかかるが、トーリさんほど苦労なく写真の作成ができるのだ、なんとか俺の特性を使った技能を活用することは出来ないだろうか……
「ふーむ……なるほど、写生玉一つで完結して写真ができていたし、以前効率化を図ろうとして失敗してるからなぁ」
「そうなんですか……なにか役立てれば良いんですけどねぇ。写真が簡単に作れるようになれば値段も下がるだろうし、キャバクラでもつかえるんですが……」
「うーん……あっ! おお!? イケるか!?」
しばらく悩んでいたガウマンさんはだったが、突然なにか閃いたようだ。
「旦那! 写生玉に写った映像を転写するのに緻密な魔力操作が必要なことを知っているか?」
「ええ……今日ここに来る前にトーリさんから一通り説明を受けました」
「だったら話は早ぇや! 旦那が書いたスクロールでその魔力操作を代わりにするんだよ!」
なるほど、後は魔力の放出だけで済むのでだいぶ負担は減る事になる。
「しかもそれだけじゃねぇ! 魔力の伝導効率をあげる薬品があるんだ。前にこの薬品を使って写真の効率を上げるってぇ計画があったが、魔力操作の邪魔になるという理由で頓挫したんだ! 旦那が緻密な操作を代用出来るのスクロールを作れってくれれば、後は俺の錬金の特性でスクロールと薬品を合成できる! 写真界に革命が起こるぞ!!」
っ! マジか!
「エル! 悪いけどトーリさんの店に行って、写生玉を持って今すぐジンワット工房に来るように言ってくれ! 俺はその間にスクロールの原文作成の準備をする」
「は、はいっ! 行ってきます!」
エルは俺の指示を受け、店から飛び出す。
写真の生成における緻密な魔力操作の内容を俺は知らない、トーリさんに聞きながら文字に起こす必要があるためエルに呼びに行ってもらったのだ。
「俺は娘を呼んでくる。旦那だけじゃあスクロールは完成しないからな。ほら、紙とペンだ。頼んだぜ! 旦那ぁ!」
「おうよ!」
さて、結果はどうなるか―――――。
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「こ、これは……す、素晴らしい……素晴らしいですよ!!」
エルが連れてきたトーリさんにアドバイスを貰いながら完成したスクロールの原文を元に、ジンワット父娘が作成した試作品をトーリさんにテストをしてもらっところ、わずか5分で写真の作成をすることが出来た。
以前の限界まで疲労して30分掛けて作っていた時とは、比べ物にならないぐらい楽になったようでトーリさんは驚嘆の声をあげている。
一応欠点といえば、楽になったとは言え多少の魔力の操作が必要なため、相変わらず魔力操作の特性を持った人間にしか作れないというところに変わりはない事くらいだ。
まぁ、魔力操作持ちが食いっぱぐれる様な事にならなそうなので、この欠点はこのままでも良いか。
「しっかし、アンタすごいねぇ。アタシも魔法文字の勉強で色々見てきたが、この術式は初めて見たよ……」
この方はガウマンさんの娘、ジール・ジンワットさんだ。
魔力付与の特性持ちでこの人が書かないと、俺が書いた魔法文字はただの文字のままだ。
それにしてもジンワット親子は名前に下ネタが絡んでないな。
「ミタライ殿!! ありがとうございます! フハハ全く疲れませんぞ! 二枚目作っちゃうもんね!」
トーリさんは、先程会った時とは段違いにテンションが上っているせいでキャラが変わっている。
よほど嬉しかったのだろう……作ってよかった。
「タケル様......すごいです」
エルが尊敬の目で俺を見ている。
ああ~気ン持ちイィ~ ……だがこれでは終わらない。
俺はトーリさんが短い時間で写真を作っているのを見て、さらに新たなアイディアが閃いたのだ。
「エル、何度も申し訳ないんだけど今度はフットルトさんを呼んできてくれないか? その間に俺は店長を呼んでくるから」
「構いませんけど……何かあったんですか?」
「ああ、ちょっと良いこと思いついたんだ」
全員が揃ってから発表しようか。
これから行うことが俺がこの世界の風俗街を変える第一手だ!
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