第13話 工房の親方はファンタジーでも大体べらんべぇ口調



 タンショー商会の店を出て商業街をエルと二人でぶらつく。

 とりあえず、生活に必要なものは一通り買い揃えたつもりだ。

 だが異世界人の俺ではわからない、この世界での生活に必要なものが他にあるかもしれない。

 ここは隣を歩くエルに色々聞いてみよう。


「ねぇエル? 生活必需品は一通り揃えたつもりだけど、他に必要なものは何かあったかな?」

「そうですねぇ......お料理などに使う魔道具があれば、家で料理が作れるようになりますよ」


 ほう……魔道具か……いいね! 俄然異世界ファンタジーな感じになってきたぞ!

 俺が召喚された異世界は、想像していた異世界物となんか違ってるからどうしようかと思ってたんだ。


 それに今までエルはヌッチャリーグッチョリーで料理を作って持ってきていたが、自宅に調理器具があればエルが料理を作っているところを後ろからニヤニヤしながら見ることが出来る。

 くっはぁ……オラわくわくしてきたぞ!


「あの......タケル様、改めて服を買っていただきありがとうございました」


 エルは俺が買った服が入ってる持参した荷物入れ用の袋を、抱えて頭を下げる。

 実は服のお礼は服屋を出てこれで5回目だ。

 よほど嬉しかったのだろう、エルは時折袋の中の服を見てニヤニヤしていた。


「気に入ってくれて嬉しいよ。ところで荷物は俺が持とうか?」


 ジェントルメンな俺は男の自分が手ぶらなのに、女の子が荷物を持っている状況に気持ちが落ち着かない。


「お気遣いありがとうございます。ですが、従者を連れているのに主人が荷物を持つのはあまり体裁が良くないので、私に持たせてください」

「そういうもんなんだね。……じゃあお願いするけど、しんどくなったら言ってね?」

「はい!」


 やっぱり奴隷って慣れないな……

 そんな事を考えながら商業街を歩いていると、一つの看板が目に止まった。


【カックシン写真店】


 写真か……そう言えば店長が存在するけどべらぼうに高いから貴族しか使わないって言ってたな。

 だが写真は、俺の世界のキャバクラには必要なものだし、せっかく無料案内所ごと転移したのだ。

 今はまだそれぞれの店の改善で案内所どころではないが、ゆくゆくは活用していきたいのでどちらにせよ写真は必要だ。

 どのくらい値段なのかや量産できるかなどぜひ知りたい。


「エル。魔道具の前に写真屋によっても良い?」

「大丈夫ですけど、私は金額を知りませんが高いって話ですよ?」

「その値段やどうやって撮るのかを知りたいから見学したいんだ」

「わかりました。では、行きましょう」



 俺たちは写真屋の看板を掲げる店の中に入る。


「いらっしゃいませ。写真の撮影をご希望ですか?」


 店内に入ると店員と思わしき若い男に声をかけられた。


「いえ、写真の値段やどうやって撮るのかを知りたくて来たんです。良かったら見学してもいいですか」


 俺は、自己紹介とこの国に来た経緯を店員に説明する。

 どうにも、異世界から来たことは伏せられているようなので、その辺りは遠い異国という事にしておいた。


「貴方が性の大賢者様だったのですね。そういう事でしたら是非見学していってください。お客様用の待合室がありますので、そちらにご案内します」


 やっぱり王様、以下略。


 待合室に通された俺達は、促されて椅子に座る。

 向かいの席に店員が座ったところで、別の女性店員がお茶を出してきた。

 どうやら向かいに座っている男性はこの店でもそれなりの立場の人の様だ。


「私はトーリ・カックシン。この店の店主をさせていただいております」


 おや、店主さんだったか。

 それにしても名前の響きから隠し撮りを連想するな、それに”撮ーり”なんていかにも写真を撮りそうな名前だ。

 自分の自己紹介は既に済ましているので、本題に入ろう。


「単刀直入に聞きますけど、写真ってどのくらいの値段がするんですか?」

「一枚10万コンです」

「じゅっ!? 10万ですか……」


 高っか! そりゃあ確かに貴族くらいしか利用しない。


「差し支え無ければ、なぜそんなに高いかを教えてもらえませんか?」

「構いませんよ。今からちょうど作業をしようとしていたところだったので、よかったら見ていってください」


 トーリさんがおーいと呼びかけると、先程お茶を出してくれた女性がバスケットボールくらいの水晶玉と羊皮紙を持ってやってきた。


「この水晶玉は写真生成水晶玉、通称写生玉と言って、人や物を写して保存することが出来ます。そして写生玉にこの紙をくっつけて転写すると写真になるのです」


 写真があると聞いて漠然とカメラがあると勝手に想像していたが、水晶玉とはさすがはファンタジーだ。

 ちなみ写生玉に突っ込んだりしない。

 突っ込んでしまえば、写生大会でゲラゲラ笑う中学生男子と同じになってしまう。

 流石にもうそんな歳ではないのだ。


 それにしても地球のアナログ写真とは全然違う方法でプリントするんだな。

 アナログ写真では撮影したフィルムを薬品に漬けて現像、暗室で引き伸ばし機で紙に転写し、各種薬品に漬けてプリントすると言った流れである。

 よく映画やドラマで見かける暗室のシーンは大体最後の作業のところだ。


 20歳の俺がなぜアナログ写真のプリント方法を知っているかと言うと。高校時代に写真部の友人である海原カイバラを手伝った事があるからである。

 その時の報酬は、当時密かに憧れていた立川タチカワさんの写真だった。

 ただ、この想いは立川さんが幼馴染の男と一緒に帰っているのを目撃した時に儚く散っている。

 だって立川さんがその男に向ける表情が、恋する乙女の顔だったもの……ああ、思い出したらなんか悲しくなってきた。


「よし! では転写を開始する前に簡単に説明をさせていただきます」


 俺がセンチメンタルな気分で思い出に浸っていると、トーリさんが転写を説明を初めた。


「転写は写生玉に紙を貼り付けた状態で、写生玉に魔力を放出し続ける必要があります。この際に非常に緻密な魔力のコントロールが要求されるので、魔力操作の特性持ちでないとこの職につけません」


 この職に付ける人が少ないから生産数が少なくてひとつあたりの料金が高いのかな?


「そしてこの緻密なコントロールを要求される魔力放出を30分間続ける必要があります」

「30分ですか……」


 魔力放出なんてしたことがないから、よくわからないが話を聞くだけでもすごくキツそうだな……


「では、行きます! ハァァァァァァ」


 トーリさんは立ち上がり、写生玉に手をかざして力を込める。



 10分経過。

 トーリさんは手をかざした状態で肩で息をしている。


 20分経過。

 足が生まれたての子鹿のように震えてきた、どうやら腕を下ろしてもいけない様だ。

 魔力放出はわからないが、腕を30分あげたまま保つだけでもしんどいだろうに……


 30分経過。

 完成したようだ、トーリさんがその場に崩れ落ちる。


「ゼェー、ゼェー……コヒュッ……ガッハァ!! オエッ」

「だ、大丈夫ですか?」


 トーリさんはフルマラソンを走り終えた人みたいになってる。


「ハァ……み、見ての通り、ハァ……このくらい疲れるので、ハァ……一日2枚が限界なんです」


 これを後もう一回!? か、過酷だ……10万コンは割と適正価格かもしれない。


 ・


 ・


 ・


 トーリさんは疲労困憊でぐったりしていたので、俺とエルは手早くお礼を伝えて早々に店を出る。

 俺たちが居れば、相手をしないといけないから体力の回復もままならないと判断したためだ。


 俺とエルは本来の目的である魔道具屋を目指す。

 行き先の魔道具屋はヌッチャリーグッチョリーでも世話になっている店に行くことになったので、エルに案内を任せている。


「着きました。ここがお店でもお世話になっているジンワット工房です」


 工房という事は魔道具の制作と販売をここ一つでやっているとことだろう。


「ガウマンさーん! いらっしゃいますかー?」


 エルが店内に向けて呼びかけると、ずんぐりむっくりな体型のひげをはやした男性が店から出てきた。


「おおう!? なぁんだ。エルの嬢ちゃんじゃねーか。どうした? あのオカマにお使いでも頼まれたか?」


 店から出てきた男は、よくファンタジーなどで見かけるドワーフといった見た目だった。

 おお! たまに街中で獣耳の人とすれ違っていたから、いるかもとは思っていたが、やっぱり実際に目で見るとなんか感激するなぁ。

 それにドワーフがいるってことはエルフなんかもいるんじゃなかろうか……今からちょっと楽しみだな。


「いえ、今日はタケル様の案内できたんです。タケル様、この方はお店でお世話になっているジンワット工房の親方のガウマン・ジンワットさんです。」


 あれ? 下ネタが絡んでない……

 マジかよ! エル以来、初じゃないか!?


「よろしくお願いします。俺は御手洗健といいます」

「嬢ちゃんが一緒にいるってぇ事ァ、お前さんがあの噂の大賢者様か!」


 やった! ”性の”が抜けている。

 王様よ、命拾いしたな。


「賢者ってガラじゃないんで普通に呼んでもらっていいですよ。今日は生活に必要な魔道具を見繕いに来たんです」

「へへ、かしこまった話し方は苦手だから助かるぜ。じゃあ旦那、好きなだけ見ていってくんなぁ」


 ・


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 ・


 調理器具は何が必要か俺にはわからないのでエルに選んでもらっている。

 その間俺は手持ち無沙汰なので、店内を見て回ることにした。

 だが異世界の道具だからだろうか、見ても何をするものなのか全くわからない。

 わからないが、俺の中の少年の心はワクワクしっぱなしだった。


 ざっと店内を見ていると、店の一角に羊皮紙を丸めたものが、束になって置いてあった。

 正解かどうかわからないが、見た目的にはマジックスクロールだ。


「ガウマンさん。これってなんですか?」

「おや、旦那ぁ知らねぇのかい? そりゃマジックスクロールって言って魔力を通すだけでそれに書かれた魔法が使えるってぇ代物だ」


 ビンゴ! この世界にもあるんだな……

 でも魔力が必要であるなら俺には不要だな、王様は魔法関係の特性じゃないと魔力を持てないって言ってたし。


「中を見てもいいですか?」

「構わねぇけど、中見てもわかんねぇと思うぜ? 魔法文字は特殊言語だからすげぇ勉強が必要なんだぞ?」

「へぇー……普段話しているのとは違う言語で書かれてるんですね……あれ? 読めるぞ!?」


 書いている文字はこの国言葉でも、もちろん日本語でもない。

 見たこともない言語なのにスラスラと読むことが出来た。

 どうやら、このスクロールは火球の魔法のスクロールらしい。


「ああん!? 旦那ぁもしかて魔法文字の勉強でもしてたんですかい?」

「いや、してないけど……あ! 俺の特性だ!」


 俺の特性は言語で称号はマスターだ。

 恐らく、この特性のおかげで勉強もしていないのに魔法文字を読むことが出来たのだろう。

 そう言えば、王様は読み書きが出来ると言っていたな……


 あれ? って事は……

 俺ってオリジナルのスクロールで新しい魔法を生み出せるんじゃないか?




【あとがき】

 はたしてタケルはオリジナル魔法でチート無双ができるのか?

 あらすじの変更は行われるのだろうか?

 次回、「ぬか喜びのぬかって、ぬか漬けのぬかなの?」乞うご期待!

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