第11話 飲みの席で宗教の話はご法度
「シーッコシコシコシコ! ワシは魔王シコキング様だ!」
「みんな! 大変よ! このままだとこの物語に性描写有りの表記を付けないといけない様な事になるわ! 会場のみんなで愛の戦士ヌッチャリーを呼びましょう!! せーの!!」
「「「「ヌッチャリー!!!!」」」」
「愛の戦士ヌッチャリー参上! いくわよんシコキング! ハァァァ!」
――――説明しようっ!
愛の戦士ヌッチャリーは大胸筋を左右交互でピクピク動かし、歩いている様に見せることで、体内のマッスルタービンの回転速度を引き上げ、なんかすごいパワーが出るのであるっ!!
「くらえ! モストマスキュラー!!」
「ぐわぁぁぁぁぁ」
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「モストマスキュラーは日本ボディビル連盟の大会では、基本ポーズには含まれていないので、加点対象になりませぇぇぇぇん!!」
「ぴゃあ!!」
何だ夢か……
昨日、店長の事をカッコいいなんて思ったせいだろうか、店長主演のヒーローショーの夢を見てしまった。
ちなみに配役は、ヒーローが店長、悪役が王様、司会のお姉さんはエルだった。
もう一回寝たら、司会のお姉さん風のエルだけが出る夢見れないかなぁ。
「あ、あの...タケル様?」
声のした方を見ると、エルがベッドの側で床に座り込んでいた。
え!? なんで……あ、そういや鍵持ってるんだった。
そう言えば俺が叫んで目を覚ました時に、可愛らしい悲鳴が聞こえたような気がする。
あれ? 待てよ……この状況……もしかして俺は朝の定番イベントを逃してしまったんじゃ……
「もしかして……起こそうとしてくれた?」
「はい。ノックしても反応がなかったので起こそうと思ったら、突然タケル様が...」
やらかしたー! 俺のアホ! なんでもうちょっと寝たままでいれなかったんだ!
そしてエルをよく観察すると、座っていたのではなく驚いて尻もちを付いたような体勢だった。
なるほど、起こそうと近づいた時に寝ていると思った相手が突然長尺のセリフを大声で叫んで飛び起きたら、そりゃ腰抜かすわ。
多分俺でも超ビビる。
「ごめんね。なんか変な夢見てさ……立てるかい?」
ジェトルメンな俺は、座り込んでいるエルに手を差し伸べる。
俺の紳士的対応にエルはときめき、好感度がグーンと上がるって寸法さぁ。
俺が原因であることは考えないようにしよう。
「あ、ありがとうございます」
エルは気恥ずかしそうにおずおずと手を伸ばし、俺の手にそっと触れる。
エルの手を掴んだ俺はぐっと自分の方に引き寄せエルを立たせる。
だが思っていた以上にエルは軽く、勢い余って俺にもたれ掛かる様な状態になってい待った。
わざとじゃない! わざとじゃないぞぉ! でもいい匂いがする!!
もうちょっとこの状態でいたかったが、エルに不信感を持たれるのはマズイ……ジェントルメンモードを継続しよう。
「きゃっ...す、すみません」
「気にすることはないさ。こっちは朝からエルの匂いを嗅げて嬉しかったくらいさ」
あれ? なんか気の利いたこと言おうとしたら、すごく気持ち悪くなってしまったぞ? 不思議だなぁ。
「......今朝のタケル様は、なんか気持ち悪いですね?」
うーん辛辣ぅ。
・
・
・
エルが準備してくれた朝食を食べながら今日の予定を話す。
「ねぇエル。王様から生活費もらったからさ、家具でも買いに行こうと思うんだけど案内してくれないかな?」
「はい! 私がご案内させていただきます!」
今まで付き人らしい仕事をする機会が少なかったからだろうか、エルはすごく気合が入っているようだ。
「あ、すみませんタケル様。買い物の前に教会に寄りたいのですが良いですか?」
「教会?」
「はい。店長に風俗街を知る上で、教会の事は知っておくべきだから案内してあげてと言われてたんです。」
店長が言うくらいだから何か密接な関係でもあるんだろう、まぁ詳しくは教会で聞けばいいか。
「わかった。よろくしくね?」
「はい!」
良い返事だ、結婚したい。
朝食を食べ終わり、出支度を済ませ家を出る。
最初の目的地の教会は、風俗街と住民街の間くらいにあるらしく、俺の家からはそんなに遠くない。
教会までエルに連れられて街を歩く。
「着きました。ここが教会ですよ。」
エルに案内された教会は、質素な作りをしていた。
異世界のその上、王都にある教会だからもっと豪華絢爛なイメージだったがそうでもないらしい。
「王都の教会だからもっと豪華な感じの教会かと思って気構えてたよ」
「王都には教会が二つあって、タケル様の言う様な大きな教会は貴族街にあります。ここは市民や風俗街の住民が利用しやすいように作られた教会なんです」
なるほど、確かに豪華で厳かな教会は一般市民には気軽に利用しづらいのかもしれない。
「さぁ神父様を紹介しますので中に入りましょう」
エルに促され、教会の中に入る。
教会の中には、いかにも神父の格好をした中年の男性と、若いシスターの女性がいた。
「ようこそ教会へ……おや、貴方はもしや性の大賢者様では……?」
広まってんのかよ! その通り名は!?
非常に不名誉なので止めていただきたい。
「こちらこの教会の神父のロック様とシスターのクレアさんです」
エルが俺に二人の紹介をしてくれる。
「はじめまして、御手洗健といいます。あと大賢者っていうのは王様の勘違いです」
あのジジイやっぱ殴っとけばよかった。
「そうでしたか……これは失礼しました。私の名前はロック。54歳です」
んん?? なぜ年齢を言った? ロックだけなら普通なのに54歳という情報が加わると6×9=54の図式が頭によぎってしまう。
いや、考えすぎだ。
この世界に来ていろんな下ネタに絡めた名前を聞いてるせいで、疑心暗鬼になっているだけだ。
年齢だって、俺の召喚された年が1年ズレるだけで成立しなくなる。
俺の考えすぎだろう。
「私は、クレア。クレア・スプラッシュといいます。この教会でシスターをさせていただいています」
んん?? スプラッシュ?
いや、考えすぎだ。
スプラッシュ自体にいやらしい意味はない。
例のごとく下ネタに絡めた名前を聞きすぎたせいで、俺が邪推しているだけだろう。
「はい。よろしくおねがいします」
「ミタライ様は遠い異国から来たと聞き及んでおります。よろしければ我らの信仰するドッシュケーべ教について説明させていただいてもよろしいですかな?」
はい! アウトー!!
神父とシスターの名前は変化球だったのに、宗教の名前はど真ん中の剛速球だよ!!
これからどんな説明されても耳に入ってくる気がしないよ!
「は、はい。よろしくおねがいします」
「ありがとうございます。では……」
ロック神父の話を要約すると、この宗教は複数いるとされている神様の中から豊穣・繁栄・健康を主に司る神様を信仰しているものらしい。
神様の名前は恐れ多くも口にしてはならないと言うことで、伝わっていないそうだ。
店長の言う通り、風俗街とも密接な関係があり、娼婦はこの教会で性病の予防と避妊のために祝福を受ける必要があるそうだ。
子孫繁栄の神様ではあるが、人類の繁栄・健康の維持のためにある程度の人口統制が必要であるため、避妊は容認されているとの事だ。
また母体に悪影響が出るため、16歳未満の性交渉及びそれに順する行為は固く禁じているそうだ。
耳に入らないなんて言ったが、あまりに真面目な内容の話のうえ、神父様の説明が上手くてすんなり理解できちゃったよ!
ただ、名前と内容がギャップ有りすぎだろうーが!!
ちなみにエルも教徒らしい。
あれ? エルって確か15歳だよな? という事は……ベッド買って一緒に暮らしていく内にそういう関係に発展しても、しばらくお預けじゃねーか。
だからエルが酔っ払った時、店長があんなに怒ったんだ!
「説明は以上となります。ご清聴ありがとうございました」
「すみません神父様。質問よろしいですか?」
「はい。どうぞ」
16歳未満の性交を固く禁じているということだったが、何処まで厳しく禁止しているだろのだろうか?
念の為に言っておくがこれは俺がもしもエルに手を出しちゃった時の保身の為に聞いているのではない。
あの……ほ、ほら……その……そうだ!
日本でも高校生を雇っていた風俗店が問題になったりしたじゃないか!
風俗街の繁栄、ひいてはプロデュースのためにはその辺キチンと知っておく必要があるってだけさ!
だからゲスな勘ぐりはよして頂きたい。
「16歳未満を固く禁ずるって有りましたけど、15歳とかそれ以下でやっちゃう可能性もあるわけですよね?」
「有り得ません」
……はい?
「いや、有り得ないってことはないでしょう? 年若いカップルが盛り上がっちゃってとか……」
もしくはロリコン貴族が金にものを言わせてとか、まぁ口に出すよう内容ではないのでここでは言わないが……
「有り得ませんね」
「そ、そうなのですか? ちなみに理由をお伺いしても……」
「天罰が下るからです」
て、天罰ぅ!?
「死んじゃったりするんですか?」
「死にはしないですよ。ただ期間限定ですが、性器が機能不全に陥ります。男性が成人、女性が未成年なら女性が成人するまでの間。どちらも未成の場合はどちらも成人するまで間といったところです」
やろうにも出来なくなるという事か、あっぶね! 聞いといてよかった。
「あ、ありがとうございます。い、いやーこれなら安心して健全な風俗街が作れるなーアハハ」
若干声が上ずってしまった。
「他にご質問はおありですかな?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございました。」
神父様とシスターに一礼し教会を出ようとしたところで、神父様に声をかけられる。
「ミタライ様」
「はい?」
俺が振り返ると、神父様は微笑みを浮かべながら右手で握りこぶしを作り、突き出している。
「貴方に神の御加護があらんことを」
神父様の突き出した握りこぶしは、人差し指と中指の間から親指が飛び出していた。
「えっと? それはなんです?」
「これは教会から民を送り出す時にする教会式のハンドサインです」
「そ、そうですか……では、改めてありがとうございました」
再度、神父様とシスターに一礼し、黙って俺と神父様の話を聞いていたエルを引き連れ教会を後にする。
やっぱロクでもねーわ、この世界。
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